「そんなトコに突っ立ってたら、入れないんっすけど」
「え? あ、あぁ悪い。……って、なんでお前が此処にいんだよ!?」
ドアを開け、グラウンドに入るなり響いた吾郎の声に先に来て練習をしていた一同の視線がハッと大河に注がれる。
「なんで? そりゃ、4月から正式に入部する事が決まったって報告する為に決まってるじゃないですか」
そんな事も判らないのかとばかりに肩を竦められようやく意味を理解した吾郎の表情が安堵に変わる。
「そぅか、じゃぁこれでやっと九人揃ったわけだな」
「あぁ、聖秀野球部本格始動って事だ!」
大河の入部が正式に決定した。
みんなの表情もぱぁっと明るくなってゆく。
「あ、1番、ショートは明けといてもらってますよね?」
「あぁ勿論だ。頼むぜ清水!」
「……まぁ、適当に頑張りますよ」
ポンっと肩に手を置かれ、それを軽く振り払うと短く息を吐く。
ぐるりと改めて辺りを見回し、吾郎以外のメンバーをチェックする。
(なんだ、いかにもスポーツやってますって感じなのは茂野先輩だけか……)
薫から素人集団である。とは聞いていたが、じっくりと見てみると実践で役に立ちそうなメンバーの少なさに愕然とする。
(こんなんでマジで打倒海堂目指してるのかよ。笑える〜)
まだ個々の能力を確認したわけでは無いが、体格や雰囲気で大体の見当はつく。
これはもしや進学する場所を間違えたか。
ふと、そんな事さえ思い浮ぶ。
ポケットに手を突っ込み、それぞれの自己紹介を軽く聞き流していると背後に気配を感じた。
「清水か……久しぶりだなぁ」
「!?」
聞きなれた声に驚いて振り向くとそこにはかつてリトル時代にコーチを務めていた樫本の姿。
「な、なんでこの人が此処に?」
「あぁ、親父と一緒にうちのチームの臨時コーチやってもらってんだ。 うちは素人同然だからな、そうでもしなきゃ打倒海堂なんて言ってられねぇんだよ」
「またお前に指導出来るなんて嬉しいぞ」
「ハハッ、そりゃどうーも」
すでに手にはバットを持ち、嬉しそうにポジションにつくよう合図してくる樫本に思わず苦笑いがこみ上げる。
(日本一のリトルの監督にオーシャンズの大エースかよ)
臨時コーチと言うには大物過ぎる相手に、少し戸惑いを覚えながらも的確に樫本のノックをキャッチしていく。
難しい打球をキャッチするたびにギャラリーと化した部員達の口から「おぉ」「すげぇ」と感嘆の声が洩れる。
(ま、ここなら退屈しないで済みそうだな)
きっと、他の学校の野球部では味わえない事が体験できるかもしれない。
ノックを終え、改めて自己紹介をしながら大河はふとそう思った。
こうして、聖秀野球部は新たな一歩を踏み出したのだった。
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