その日の夕方、吾郎は寿也に電話をかけた。
昼間眉村の言っていた事と寿也の関係を確かめる為だ。
『俺たちと別れてくれ』
はっきりと言われた事実が頭から離れない。
「へぇ、眉村のヤツ君にそんな事言ったんだ……」
今日あった事を全て話すと、寿也は予想以上に落ち着いていた。
その落ち着きっぷりが余計に吾郎の不安を煽る。
「そうなんだよ。で、寿は……」
眉村とグルなのか?
そう問おうとして口を噤む。
知りたいような知りたくないような複雑な心境。
もし彼もグルで、眉村と同じように別れてくれ、と言い出したら。
最悪の状況が頭を過ぎり二の句が継げなくなる。
珍しく言い淀んだ吾郎の考えを読み取ったのか電話越しに彼がフッと僅かに笑った気がした。
「寿也?」
「あぁ、ゴメン。 きっと今の君は凄く泣きそうな顔をしてるんだろうなって思って」
「な、泣いてなんかいねぇっつーの!!」
ズバリ指摘され思わずムキになって否定する。
そんな彼の様子が可笑しかったのか寿也がクックックと笑い始めた。
「な、なんだよ。笑うトコじゃねぇっつーの! 俺は真剣に……」
「わかってる。 大丈夫だよ。僕は別れるつもりなんてさらさらないから」
「!」
寿也の返事は自分の予想した最悪の答えでは無かった。
一気に気が緩みホッと胸を撫で下ろす吾郎だったが現実はそうも甘くない。
「別れるつもりは無いけど……少し距離を置いた方がいいと思う」
「え……? 今、なんて……」
緩んだ空気が再び張り詰めるのを感じながら恐る恐る聞き返す。
「だから、今まで通りの関係じゃ駄目だって言ったんだ。理由は眉村と同じ。どのみち僕らはこれから春の大会に向けて忙しくなるし、君だって夏の公式戦に出るつもりなんだろう? 云わば僕らは敵同士だ。試合に私情を持ち込むつもりは無いけど少しでも不安要素は取り除いた方がいい。これは君が選んだ道なんだから」
静かな口調で話す彼の言葉を聞いているうちに目の前がどんどん暗くなってゆく。
自分と寿也達は敵同士。
いつかはこうしなければいけない事は薄々判っていた。
判っていたが出来るだけ考えないようにしていたのも事実だった。
「そう……だよな。 わかった。大会が終わるまでは敵同士だな」
「うん、大会が終わるまでは、ね」
その後は……。
どうなるのだろう。
一瞬過ぎった不安。
だが、今それを聞く気にはなれずに少し話を交わした後ゆっくりと終了ボタンを押した。
「――大会終わるまで敵同士……か……」
そのままベッドに電話を放り投げ自分も重力に任せて倒れ込む。
言いようの無い虚しさだけが胸に残り何時までも薄暗い天井を眺めていた。
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