海堂編

LoveSick


数時間後、吾郎はそのまま真っ直ぐ家に帰る気分になれず近所の公園に立ち寄った。

あれから眉村とどんな会話をし、どんな風に別れたのか思い出せない。

どんよりとした分厚い雲の隙間からはチラチラと雪が降り始め、手足もジンと痺れてくる。

近くにあった自販機でホットコーヒーを購入すると重い足取りでベンチに腰を降ろす。

なんでこんな事になってしまったのか。

結局初売りにも行かずじまい。

もしかしたら初売りに行きたいと言うのは単なる口実で、最初からこの話をするために会いたかったのかもしれない。

「自業自得、かな……ハハっ」

自嘲気味に呟いた言葉が虚しく響く。

妙に静かな公園は余計に孤独感を募らせ仄かに湯気の立つコーヒーをジッと見つめては自然と溜息が洩れた。

「……何、やってるんっすか?」

ふと、目の前の影が揺らめいて声を掛けられた。

ゆっくりと顔を上げ、話し掛けてきた相手を確認する。

「お前は確か清水の……」

「なんだ、覚えててくれたんだ」

相変わらず生意気そうな目をしながら見つめてくる。

だが今は相手にしてやる気も起きず、ゆっくりと視線を缶コーヒーに戻した。

「……こんなとこ居たら風邪引きますよ。それとも、なんかの修行ですか?」

「別に。お前には関係ねぇだろ」

「まぁ、確かに。僕には関係ないですけど……」

肩を竦めふぅっと息を吐く音が聞こえる。

早く一人になりたいのに一向に立ち去る気配のない彼に僅かな苛立ちを覚え顔を上げた。

「失恋でもしたような顔してる」

「っ!!」

目があった瞬間そう呟かれ、息が詰まりそうになる。

グッと息を呑んだのが解ったのか彼はニヤリと笑った。

「ふーん、そうなんだ……。それでこんな寒いのに外に」

「うっせーなっ、そーだよ。凹んでて悪いか! もういいだろ? 俺なんか相手にしてたって楽しい事なんか何もねぇって。 早く行けよ」

「うっわ、図星突かれて逆ギレかよ。感じわりー……。ま、そこまで言うなら行きますよ。慰めてやるほど僕も暇じゃないんで」

いっきにまくし立て今にも噛み付きそうな勢いの吾郎にわざとらしく肩を竦め手を振る。

やっと一人になれる。

そうホッとしたのも束の間。一旦足を止めた彼はクルリと振り返り一言。

「こんな雪の降る公園で大きな男が凹んでたら嫌でも目立つしかっこ悪いから止めた方がいいっすよ」

「っ! うっせ……。いいんだよカッコ悪くても……くそっ」

すっかり温くなった缶コーヒーを一気に飲み干し空になった缶をグシャッと握り締める。

「……」

(ありゃ相当こっぴどく振られたんだな)

以前、聖秀野球部のグラウンドで会った彼と別人のような姿に、大河はもう一度肩を竦め今度こそ公園を後にした。


/ススム

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