海堂編

LoveSick


翌日吾郎は眉村と街へ出掛けていた。

本当は新年の挨拶もかねて初詣に誘われたのだが、2度も人ごみの中へ入って行く気にはなれずに断ったのだ。

しかしどうしても会いたいらしく、いきつけのスポーツ用品店が初売りだから一緒に行きたいと言われ、それならばとOKした。

借りたままの服も返さなければいけないし丁度いい。

一瞬、寿也の顔が頭に浮かび胸が痛んだが、それは敢えて目を瞑る事にした。

外は昨日にも増して寒く底冷えがする程だった。

「久しぶりだな、お前とこうやって出掛けるの」

「あぁ、クリスマス以来になるか」

「そうだな……」

肩を並べて歩きながら、クリスマスの出来事がフィードバックして蘇りなんとなく気恥ずかしくなってくる。

ほんのり染まった頬に気がつき、「どうかしたのか?」と首を傾げた。

「別に、なんでもねぇ。 それより……ちゃんとしてくれてんだな、マフラー」

チラリと視線をマフラーに移すと眉村の表情が僅かに綻ぶ。

「あぁ、お前が初めて送ってくれたものだからな。暖かいし気に入っている」

普段はあまり見せない嬉しそうな表情になんだかくすぐったい気分になる。

「そっか……そんなに喜んでくれるなら悪い気はしねぇな」

鼻の下を擦りはにかんで笑う吾郎を見つめ眉村はグッと腰に腕を回し引き寄せた。

「わっ!? ちょっ、此処街の中だぞ!」

「なんだ、気になるのか?」

「あたりまえだっつーの!」

文句を言う視線を易々と受け止め、大して気にもならないのかフッと笑みを零す。

「俺は別に気にならん」

「俺が気になるんだよ! つか、誰か知り合いにあったらどうすんだ」

真っ赤になって睨み付けてくる吾郎に眉村は緩く息を吐くと渋々と回していた腕を解く。

その口元には不満がありありと見て取れて吾郎は後ろ頭を掻いた。

「全く、何考えてんだよ。こんな人前で……」

「わかったわかった。もうしないからそんな顔するな」

肩を竦めこれ以上言うなと言葉を遮られる。

吾郎の言う事はもっともだが、元々人の目などどうでもいいと思っていた眉村は至極残念そうだ。

どうせ、周囲は今にも降り出しそうな天気から少しでも早く逃れようと足早に店の中へと急ぐ人が殆どだ。

別に人の行き交う往来の真ん中でキスをしているわけでもないのだから、そこまで抵抗する事もないだろう。

そんな事を考えてもう一度重く息を吐く。

「もう、いいだろう。あまりキャンキャン騒ぐな。そっちの方が目立つ」

「なっ! キャンキャンって何だよ!」

「とにかく、場所を変えるぞ。 何時までもこんな所に居たら風邪を引く」

「おい、ちょっと……っ」

未だに納得がいかない顔の吾郎に、このままでは埒が明かないと腕を掴んだ。

そして人の波を掻き分け人通りの少ない路地裏へと連れ込んだ。

/ススム

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