「ホント、信じらんねぇ。普通あんな人ごみの中で盛るかよ」
「ゴメンてば。吾郎君」
スタスタと怒って先のほうへと歩いていってしまう相手を、寿也は必死で追いかける。
ちょうど人ごみが途絶えたところで、吾郎が急に立ち止まる。
その背中に勢いよくぶつかって寿也は鼻を打ってしまう。
「一体どうしたのさ?」
「な、なんでこんなとこに、みんなそろっているんだよ!?」
彼の一メートルほど向こうに丁度反対側から歩いてきた茂野一家の姿があった。
「よぉ、吾郎。お前今日デートなんだって?」
ニヤニヤしながら英毅が近づいて来る。
吾郎は先ほどのことがあるので、親には会いたくなかったのか思わず半歩さがってしまう。
「だ、だから違うっつってんだろ!?」
そういいながらも、顔から火が出そうなくらい真っ赤になっている彼を見て、寿也はため息をついた。
(吾郎君はすぐに顔に出るタイプだから、隠し事ってすぐバレちゃうんだよね)
「なんだ、彼女と一緒じゃないのか?」
「だから、彼女なんかいねぇって。俺はコイツと遊びに来ただけなの!」
グイッと腕を引っ張られ、よろよろと前に出される。
「あら、寿也君じゃないの」
「ど、どうもこんばんわ」
これには、桃子も英毅も驚いたようだ。
「これで、デートじゃねぇってわかっただろ? ほら、早く行かねぇと花火終わっちまうぞ」
「どうせなら、一緒に見ましょうよ」
寿也の手を引いて帰ろうとする吾郎を引き止める。
出来るだけ早く、帰りたかったのだがここで帰ると逆に怪しまれそうだと判断し、しぶしぶ同行することになった。
「ねぇ、吾郎兄ちゃん」
「なんだ? 肩車か?」
真吾はううん、と首を振る。
「じゃぁ、なんだよ」
「お兄ちゃん、泥遊びでもしてたの? お背中真っ黒だよ?」
「えっ!? あぁ!!」
「本当だ」
よく見てみると、吾郎の背中には葉っぱや泥がたくさんついていた。
「どうやったらココまで汚れるのよ?」
呆れた顔をする桃子に、何も言い訳が思いつかず頭の中が真っ白に。
「ち、ちょっと、時間があったからその辺で寝転んでたんだよ、なぁ寿?」
「えっ? ああ、そうそう」
「でも、ここら辺って全部舗装してあって土なんか無いはずだけど?」
「!!」
「あっ、そうだ俺たちコレからちょっと行くとこがあったんだ。じゃぁ、そういうことでっ!!」
「あ、ちょっと! 花火は?」
これ以上追求されては大変だ。と二人は慌てて逃げていった。
残った英毅と桃子は首を傾げる。
二人に何か秘密があるのは明白だった。
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