家族の元へ戻って来た薫はなんとなく嬉しそうだった。
(たくっ、わかりやす過ぎだっての)
こうも単純な反応をされてはからかう気も起きない。
半ば呆れながら吾郎の姿を視線の端で捉え短く息を吐く。
(茂野吾郎ね……ふぅん)
値踏みするように観察していると隣にもう一人男が現れ大河はハッと息を呑んだ。
「なぁ、姉貴……アイツ佐藤先輩と知り合いなわけ?」
「アイツ? 佐藤先輩って?」
突然話を振られた薫は大河が何を言っているのかわからずに首を傾げる。
「茂野先輩の事だよ! 海堂の佐藤先輩と友達なのか?」
「あぁ、佐藤って寿也君の事かぁ。 そうそう! なんでも幼馴染らしいよ。って、なんでアンタが寿也君の事知ってるのよ」
「……」
「大河?」
「いや。なんでもない……」
「?」
薫の問いには答えず、腕を組み何か考え込んでしまった弟に薫は不思議そうに首を傾げた。
(茂野先輩があの人と幼なじみだったなんてな……)
意外な発見に喉の奥で小さく笑う。
(茂野先輩と上手くやればあの人に近付けるかもしれない……)
厳しい上下関係や面倒な規律も殆ど無く、レギュラー争いとは無縁。
その上ずっと憧れてきた佐藤寿也と接点を持つことが出来るかもしれないとなれば、正に一石二鳥だ。
(ぶっちゃけあんま期待してなかったけど、楽しくなりそうだな……)
「何笑ってんだよ、大河……なんかいいことあったのか?」
「別に……聖秀行ったら少しは楽しくなりそうだなって思っただけだよ…」
人混みに紛れ、姿が見えなくなった吾郎達の居た方向を見つめ薄く笑う弟の姿を薫は不思議そうに眺めるのだった。
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