吾郎たちが参拝を終え出店の方へ歩き始めた頃、薫は家族で同じ場所に来ていた。
「……本田?」
「どったの、姉貴」
急に立ち止まった姉に迷惑そうな表情をするのは、清水の弟の大河だ。
「今、本田がそこに居たような気がして……」
「本田?あぁ…茂野先輩の事か…」
「そう! アイツ家に電話しても居ないと思ったら初詣に来てたのか」
ほんの少し寂しそうな表情をして短く息を吐く姉を見て大河はニヤリとほくそ笑む。
「ははーん、姉貴気になるんだ。茂野先輩の事」
「なっ!? なーに言ってんのよ! 何でアタシがあんなヤツの事気にしなきゃいけないんだよ」
頬を染めワタワタと慌てた様子の姉になんて解りやすいんだと呆れてしまう。
「でも、ホントは先輩と来たかったんだろ?」
「別にアタシは……っ」
ニヤニヤと笑いながら指摘されグッと言葉に詰まる。
何か言い返してやろうと思ったその時。
「ん? おーい、清水じゃねぇか!」
「!」
聞きなれた声に呼ばれ反射的に顔を上げる。
いつもと変わらない気さくな笑顔にドキリと胸が高鳴った。
「なんだ、こんなとこで会うなんて奇遇だな。お前も初詣か?」
「う、うん……やっぱ元旦だし」
「だよなー。にしてもすげぇ人だぜ。俺はもうウンザリ」
肩を竦め首を振ってみせる吾郎に思わず笑みが零れる。
「今年は特に多いみたいだな」
人の波は絶えることなく後から後から押し寄せて来る。
さっきまで側に居た家族はお守りを購入する列に並んでいた。
「薫! 何やってるの、はぐれるわよ」
「あ、はーい! 悪い本田! またな」
母親の呼ぶ声が聞こえ、適当に挨拶を交わすと薫は家族の元へと走って行った。
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