初詣に行こう。
そう誘われたのは今朝の事。
日も改まって、家族で御節をつついていた時だった。
あまりの突然の申し出に驚きはしたものの、寿也の空いている日が今日しかないと言うので仕方なく行く事にしたのだ。
「お前、またバイトやってんのかよ」
「うん、まぁね。普段寮に居て出来ない分、長期の休みくらいはおじいちゃんたちに迷惑掛けたくないから」
「ずっと同じ所なんだろ? 今度覗きに行ってやるよ」
冗談めかしく言うと、寿也からは「楽しみにしてる」と返って来る。
お互いに視線を交わしクスッと笑い合う。
それが堪らなく心地よくくすぐったくも感じた。
「そういえば――眉村とはまだ連絡取り合ってるのかい?」
突然彼の口から”眉村”と言う単語が飛び出し吾郎はギョッとして目をこれでもかとばかりに見開いた。
「な、なんだよ急に」
「いや、別にちょっと気になっただけだよ」
あまりの吾郎の狼狽ぶりに寿也の眉が僅かに吊り上る。
「……んな顔すんなって……あの日以来いっぺんも会ってねぇし、連絡もねぇよ」
「……本当?」
「本当だっつーの。元々アイツ頻繁に連絡してくるようなヤツじゃねぇし……」
「そっか……」
あからさまにホッとした表情を見せる寿也の表情に胸が痛む。
上手い言葉が見つからず困惑している間にも人の列は進み吾郎達が参拝する番が近づいて来る。
「これが終わったら出店でも覗いて行こうよ」
賽銭を投げながら寿也は何事も無かったようににっこりと笑った。
「寿……そうだな」
寿也に無理をさせている事に罪悪感を覚えつつ、順番が回ってきた為に手を合わせ参拝する。
野球部の事、眉村と寿也の関係の事、全てが上手く行くように……。
願いたい事は山ほどある。
少々欲張りすぎではないかと自覚しつつ、寿也と共にお堂を後にした。
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