「え!?」
寿也は吾郎の言葉に目を見開いた。
「寿也のこと、もちろん好きだ。一緒にいて幸せだって思えるし、遠征とかで会えないとすっげぇ会いたくって寂しくって」
吾郎は俯き、眉をしかめ複雑な表情をする。
寿也はその一挙一動から目が離せないで、ただ黙って聞いていた。
「でも、やっぱり眉村のことも気になるんだ。アイツに抱きしめられるとドキドキして、好きだって言われると、何も考えられなくなっちまう。どっちを選んでも二人を傷つけちまうし、このままの関係でも結局二人を裏切ってる。だけど、俺やっぱ決めらんねぇよ。二人とも同じくらい好きになっちまった。」
どうして、こんな風になってしまったのか。
自分でもよくわからない。
強いものに憧れるのは昔からで、強い奴と戦うとワクワクする。
最初は、寿也も眉村もその対象の一人だった。
ずば抜けてバッティングセンスのよい寿也、天才的なピッチングの眉村。
挑戦したいと思うと同時に強い憧れも抱いていた。
そんな二人に好きだと言われ、意識し始めた。
マウンドにいるときとは別人の顔にどうしても甘えてしまう。
今の今まで、自分の中にこんな弱い自分がいるなんて知らなかった。
「――待つよ」
今まで黙っていた寿也がふいに口を開いた。
吾郎は驚いて顔をあげ、彼を見た。
「吾郎君の気持ちは良くわかった。……だから、きちんと気持ちの整理がつくまで待つよ」
「寿也」
複雑な表情をしていたが、先ほどのような怒りはなく落ち着いて話をする。
「もちろん、僕は簡単に君を眉村に渡すつもりはないけどね」
ぎゅっと抱きしめた腕に力が入る。
負けたくない。
彼は自分の物なんだと改めて闘志を燃やす。
「悪りいな。寿」
「仕方ないだろ? 吾郎君そんなこと言われたら待つしかないじゃないか」
「そう、だよなホント、ごめん」
吾郎は彼に身体を預け、寿也も抱きしめたままお互いのぬくもりを感じる。
「ねぇ、吾郎君」
「あんだよ?」
「僕と、眉村どっちのエッチが気持ちいい?」
「なっ!?」
顔を覗き込まれ、慌てふためく。
「なんだよ急に……そんなの」
「だって気になるだろ?」
「どっちでも、いいじゃねぇか」
「顔真っ赤だよ?」
「うるせぇな。寿が急に変なこと聞くから」
くすくすと笑う寿也は、吾郎の反応を見て楽しんでいるようだった。吾郎は、まいったなと呟き、視線を泳がせる。
「ねぇ、教えてよ」
「わっかんねぇよ。そんなの」
「えー、どうしてさ」
まだなにか追求しそうな勢いの寿也だったが、階下から祖母の夕食を知らせる声が聞こえてきて、吾郎はホッと安堵する。
「俺、もう帰るわ」
「え? 一緒にご飯食べていけばいいのに」
寿也の言葉に、ふるふると首を振る。
「実は、俺んち最近親父の監視がうるさくってさ。早いとこ帰んねぇとまた言われちまうんだ」
「そう、なんだ」
「だから、悪りいな。そうそう、着替え今度洗って帰すからよ」
残念そうな表情を見せる寿也に手を振って、吾郎は家へと戻っていった。
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