「もう、吾郎君。出しすぎだよ」
寿也は、彼の放ったものでべとべとになった服と、壁に凭れぐったりと身体を預けている吾郎を見比べた。
「っせーな。仕方ないだろ?」
恥ずかしそうに頭をもたげ、腕で顔全体を覆う。
「大体、汚れんのイヤだったら、服脱げばよかったじゃねぇか」
「そうなんだけどさ、この部屋寒いし風邪引きたくないからね」
「そういう問題かよ」
「そういう問題なんだよ」
呆れた声を上げる吾郎に対し服を着替えながら答える。
「そういやいつもお前、俺の服も中途半端に脱がせるよな。あれってなんでだよ?」
「なんでって、そのほうが視覚的にそそるからに決まってるだろ?」
乱れた服の隙間から覗く肌がとても色っぽく感じる。
「そ、そそるとか言うなよ」
「だって、事実だし……。今更恥ずかしがることないだろ?」
吾郎の表情はくるくる変わる。青くなったり赤くなったりからかうととても面白い。
自分の下に組み敷くと、普段の彼とは想像もつかないような反応を見せる。それを自分だけが知っている(約一名を除く)そう思うととても嬉しかった。
「それにしても、ビックリしたな」
「何がだよ?」
「吾郎君が自分から欲しいって言ってくれたのが」
「っ、あれはっ寿が焦らすから!」
ガバッと起き上がり、寿也と目が合ってまた再び視線をそらす。
その仕草がまたなんとも可愛らしく思え、そっと抱きしめた。
あんなに自分のことを求めてくれるのなら、もっと焦らしてやればよかったかななどと想像する。
「吾郎君。も一回シよ?」
「え”っ、てゆーか俺、無理だって寿! 三日連チャンはさすがに身体がもたねぇっ」
「3日?」
寿也の肩がぴくっと反応し、吾郎は失言を犯したことに気がつく。
「昨日は僕たち会ってないよね?」
「あ、アハハ。今のナシっ! 間違えたっ」
「誰と、会ってたのかなぁ?」
顔は笑顔だが目が笑っておらず、背後に怒りのオーラが見え隠れする。
背後は壁。当然逃げ場など何処にもない。
「君の恋人は誰?」
「と、寿クン……デス」
あまりの恐怖に吾郎は身体を強張らせ、思わずカタコトになる。
「それがわかってて、どうして彼と会うのさ?」
言葉に詰まり、チラリと寿也を見ればじっと黙って吾郎の言葉を待っている。
眉村のことも、好きになってしまった。
などと答えたら、寿也はどう思うのだろう。
ひどく怒って、自分とはもう付き合えないと別れを切り出されるだろうか?
それは、イヤだ。
けれど、自分の心のどこかに眉村への気持ちがあるのも確かだ。
ケリをつける。そういったあの日からもうだいぶ経ってしまった。
けれど、未だにズルズルと決めきれずに中途半端な気持ちで二人と付き合っている。
結局、自分は甘えているのだと思う。
彼らの与えてくれる愛情に。
それが二人を苦しめていることも重々理解していた。
二人とも同じくらい好きだ。とても選ぶことなんてできない。
毎日悩んで悩んで一人と会うたびにもう一人を思い出して胸が痛む。
こんな事も決断できないなんて、本当に男らしくない。
このままズルズルと引きずってもいいことなんて一つもないのに。
自分で自分の本当の気持ちが判らなかった。
「ごめん、寿。俺やっぱ決められねぇ」
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