翌日、吾郎は珍しくピッチングが乱れていた。
足腰の気だるさが残り、踏ん張りがうまく利かない。
(やっぱ、二日連チャンはまずかったなぁ)
ベンチに腰を下ろし、彼らとの事が頭に浮かぶ。
今日は、英毅が仕事で樫本だけがコーチに来ている。
守備練習をしているほかの部員を見ながら、英毅がこの場に居なくてよかったと心のうちで安堵のため息を洩らす。
その様子に気付いたのか樫本が近づいてきて、顔を覗き込む。
「どうしたんだ、今日はいつものキレがないな。何か悩み事か?」
「おっさんには関係ねぇよ。たまたまに決まってんじゃねぇか」
心の中を見透かされそうな気がして、立ち上がると素振りの練習をしている仲間のもとへ行き、自分も練習に参加する。
その様子を、首をかしげながら樫本はじっと見つめていた。
「なぁ、たまには皆で飯でも食いに行こうぜ」
練習後、藤井がそう切り出した。
冬休みに入っているため練習は午前中で終わり、今はちょうど昼飯時だ。
「もちろん、茂野もこいよ」
「あぁ」
本当は、体もだるいし早く帰りたかったがたまには仲間内でワイワイするのも悪くない。
そう思って、ついていくことにした。
昨日と同じファーストフードへ入り、昨日と同じものを頼む。
なんだか不思議な気分だった。
でも、仲間たちと今日の練習の話や、野球のことを話すのはとても楽しかった。
最初はみんな興味がなくて、絶望的な気分でいたのが嘘のようで、とても嬉しく思う。
内山は妹の世話があるとかで、これなかったのが残念だったがその他のクラスメイトたちと他愛のない話をして過ごすのもたまにはいいなと思った。
「これから、どうする?」
「たまにはカラオケでも行こうぜ」
田代の言葉にドキッとした。
指差す先には、昨日眉村と行ったばかりの店が見える。
「悪い、俺……急用思い出したから、帰るわ」
急に立ち上がりそそくさと逃げ出す吾郎を、田代ががっしりと捕まえた。
「なんだよ茂野。たまにはいいだろ?」
「い、いやぁほら俺、歌下手だし」
「別にいいよ。そんなの気にしねぇし。それとも、あの店に行きたくない理由が他にあんのか?」
「そ、それは」
宮崎のセリフに言葉が詰まる。
田代や藤井も興味津々な視線を吾郎に送っている。
「わぁったよ。行くよ、行けばいいんだろ行けば」
皆の視線に耐え切れず、とうとう吾郎は深いため息をついた。
別に、気にしなければいいんだ。
平常心を保てばどうってことない。
そう思っていたが、どこも満室で最後に残っていた部屋は、昨日眉村と過ごした部屋だった。
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