寿也は、部屋でさっきの雑誌を読んでいた。
バタバタと大きな音を立てて階段を上る音が聞こえ、彼が慌てて入浴を済ませてきたのがわかり苦笑する。
吾郎が階下に居る桃子に部屋に近づくなと話しているのが聞こえ、あまりの声の大きさにぷっと吹き出した。
ドアが開き、黒のジャージに身を包んだ彼を見てなんだか懐かしい気持ちになって、ハッとする。
彼は寿也の隣に腰を下ろすと、持って来たジュースを手渡した。
「ありがと」
頬にわずかに触れた湿気を帯びた髪からほのかによい香りがして、俯く。
「それにしても、驚いたぞ。俺、てっきり学校のダチだと思ってたから」
「ごめん」
「謝るなよ、俺嬉しかったんだぜ。寿也がいて。今でも夢見てんじゃねぇかって思ってるんだから」
そういって屈託なく笑う。
少年っぽい笑顔は相変わらずでつい寿也は邪な考えが頭をよぎる。
「そういや、何か用事あるんだろ?」
「今日、クリスマスイブだろ? どうしても君の顔が見たくって」
吾郎は、あっと言う顔をする。
どうやらすっかり忘れていたらしい。
「寿って、すげぇな。何でそんなの覚えてんだよ?」
「忘れるほうがおかしいって」
意地悪く笑うと、吾郎は少し拗ねたような顔をする。
「特別な夜くらい、好きな人といたいだろ?」
まっすぐに彼を見据えると、みるみるうちに頬が紅潮して行くのがわかる。
「これ、プレゼントなんだけど、受け取ってよ」
寿也が差し出すと、吾郎は両手をぶるぶると大げさに振って見せた。
「俺貰ってばっかで、今日だって何にも用意してねぇし受け取れねぇよ」
「そんなの、気にしなくっていいのに」
「俺は気になるの! そういや、寿の欲しいもんってなんだ?」
「僕が欲しいもの?」
吾郎は彼の言葉を身を乗り出して待っている。
「あ、あんまり高けェのはダメだぞ。なんか無いのかよ?」
「一つだけ、あるよ」
「なんだよ?」
寿也は彼の腕を引っ張り、そっと耳打ちする。
「僕が欲しいのは、茂野吾郎。吾郎くんが欲しい」
それ以外は、なにもいらない。
そう言われ、吾郎は一瞬思考回路が完全に止まっていた。
ハッと我に帰り、ようやく言われた意味を理解したのか、顔から火が出そうなほど赤くなる。
「なに恥ずかしいこと言ってんだよ、寿ぃ」
「僕は本気で言ってるんだよ」
身を乗り出して、真剣な表情の彼に吾郎は少し戸惑った。
「寿」
寿也の手が頬に触れる。ただそれだけで鼓動が速くなり、全身が熱を帯びたように熱くなる。
吾郎は、躊躇いながらそっと彼の背中に腕を回した。
前/ススム
Menuへ戻る