そうとは知らない吾郎は、一人で待ち合わせ場所に立っていた。
「おかしいな、場所間違ったか?」
どこを見回しても彼の姿は無く、少し待ってみることにした。
ガードレールにもたれかかったその時、急に後ろの茂みからにゅっと延びてきた手に目隠しをされる。
「!?」
「だーれーだ?」
声の主はもちろん寿也だ。
「寿! 隠れてたのかよ」
「うん、ビックリした?」
いつもの調子で話す彼に、なんとなくドキッとした。
「あれ、お前普段着で来たのか?」
「うん。吾郎君もそうだと思ったから、でもハズレちゃったみたいだね」
と言いつつ、視線は胸元の合わせの部分へ。
その視線に気がつき、吾郎は慌てて背を向ける。
「たくっ、どこ見てんだよ」
「ごめん、つい。でも、すっごく似合ってる」
そっと耳打ちされ、すっかり照れてしまう。
辺りはだんだん薄暗くなり、屋台の提灯が少しずつ点灯を始める。
「僕、何か買ってくるね」
そう言って、彼は人ごみに消えていいってしまった。
吾郎は思わず大あくび。
あまり待つのは好きではなかったが、彼を待っている間はあまり苦にならなかった。
しばらくして、戻ってきた彼の手にはカキ氷が一個。
「あれ寿也、食わねぇの?」
「もちろん食べるよ。吾郎君と一緒に」
木陰に腰掛けながら、こっそり耳打ちされて心臓が高鳴る。
そのうち、軽快な音楽とともに、花火大会が始まった。
――ヒューーードーーン――。
爆音と一緒に、みんなの視線は一斉に花火のほうへ向けられる。
吾郎もつられて見ていたが、急に腰に手を回され寿也を見やる。
「お、おい! こんな人がいっぱいいるとこで何やってんだよ!」
「大丈夫。みんな花火に集中してるから」
にっこり笑ってググッと引き寄せられ、吾郎は花火どころではなくなってしまった。
寿也も、花火ではなく吾郎のことをじっと見つめていた。
――ヒュルルルルルーーーードーーーーン――。
花火の音のように、心臓の音が他人に聞こえてしまうのではないかと思うほどドキドキしている。
寿也から一秒たりとも目が離せず、息をするのも忘れてしまいそうなほどだ。
ふっと暗くなる次の花火が上がるまでの準備期間。
その瞬間を待っていたかのように、寿也は吾郎をぎゅっと抱き寄せ口付けた。
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