海堂編

LoveSick


季節は移り変わり、木枯らしの吹く季節になった。

この一ヶ月、色々あったもののやっと八人部員がそろった。

最後まで渋っていた宮崎と内山もようやくコーチとしてやってきた父、英毅や横浜リトル監督の樫本らに認められ野球部専用の部室も手に入れた。

少しずつ聖秀野球部は動き出す。

吾郎は、自分の父と顔をあわせるのがなんとなくイヤで、他の部員とは別メニューの基礎体力トレーニングをこなす。

あれからと言うもの、吾郎は英毅とまともに会話をしていない。

ただでさえ、顔を合わせずらいのにコーチとしてやってくる。

少し憂鬱な気分だった。

「なぁ、茂野。お前親父さんと仲悪いのか?」

昼休み、田代が声をかけてきた。

「別に。そんなんじゃねえよ」

買ってきたばかりのジュースにストローを挿し、木枯らしが吹く十一月の空を見る。

雲はどんより厚く覆っていて、とても寒そうだ。

今日は放課後父親がやってくると思うと、やはり気持ちは沈む。

「なぁ、田代。ちょっと付き合ってくれ」

「ええっ、今からかよ」

こういう時は、すっきりボールを投げるに限る! とばかりに立ち上がる。

結局田代もなんだかんだと言いながら付いてきてくれた。

全力で投げ込むと、やはり気持ちがいい。

一球づつ投げるごとに、少しずつ気持ちが軽くなってゆく。

そういえば最近、試合をしていない。

もちろん八人では出来るわけも無いがやはり、マウンドに立って投げてみたくなる。

ストライクを取る瞬間が一番ワクワクして楽しい。

毎月、紅白試合でやっていたあの頃が懐かしい。

それ以外にも他校との試合もたくさんあったし、毎日野球漬けでかなり充実していた。

今更言っても仕方のないことなので、早く四月にならないかと吾郎は今から心待ちにしていた。

どんな新入部員が来るのだろう?

できれば、経験者でうまい奴がいい。

あと一人そろえば、試合ができる。

それが何より今は楽しみだ。

「茂野ってさぁ、マジで野球バカだよな」

屋上から戻る途中、田代が呆れたように吾郎を見る。

「お前、野球以外に興味あるもんねぇのかよ?」

「……さぁな」

ポケットに手を突っ込みながら、思い出すのは彼らのこと。

自分の興味は、野球以外と言われればそれしかない。

教室へ戻ると、先ほど飲みかけていたジュースを口に運ぶ。

田代はまだぶつぶつ言っていて、そこに藤井が口を挟む。

「なんだよ、田代知らねぇの? コイツ彼女持ちだぜぇ」

「え!? マジかよ」

その場にいた仲間全員が声を揃えて藤井を見る。

「何で藤井はんなこと知ってんだ? 見たことあんのか?」

「いや、見たことねぇけど茂野ってよく首筋につけてくるし……」

一斉に振り向かれ、ゴホゴホとむせ返る。

「てめっ! 言うなって約束してただろ!?」

「おお、茂野が赤くなってんぞ」

「すっげーじゃん。もうヤッたことあんのか?」

「案外手が早いんだ。茂野って」

珍しいものでも見たかのような反応に、机に突っ伏して顔を隠す。

「うるせーよ。お前らにゃ関係ねぇ事だ」

「なぁ、今度紹介しろよ。俺達仲間だろ?」

「あぁ。そのうち、な」

小さく返事をしたと同時に教室に先生が入ってきた。

今日の授業は英語。山田の授業だ。

しばらくは、起きていられたもののやはり午後の睡魔には勝てず、ついウトウト眠ってしまう。

当然のことながら山田に注目されている彼は、その後みっちりと宿題をだされたのであった。



/ススム

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