降りしきる雨の中、傘もささずに当てもなくフラフラと歩き続けた。
気がつけば、寿也の家の前まで来ていた。
ほんの少しの期待を抱いて明かりのついていない彼の部屋を見つめる。
(そっか……寿、今日から遠征で居ないんだ)
切ない思いで胸が苦しくなる。
会いたくて、どこか寂しい気持ちでいっぱいだった。
頬に冷たい雨がつたう。
それは自分の涙か、本当に雨なのかはわからないけれど。
判っていたことだ。
別に、どんな風に思われても構わない。
そう思っていたのに、虚しいだけ。
そう言われ辛くなった。
自分が女だったらこんな風に悩まずにすんだのだろうか?
ふとそんな考えが頭をよぎる。
しかし、二股をかけている以上悩みは同じだった。
結局のところ、男同士でも男女でも人を想う気持ちは変わらないはずだ。
十月の雨は思っているよりずっと冷たく、心の中まで冷えきってしまうそんな感じがした。
(これから、どうすっかなぁ)
近くの公園へ行きベンチにもたれかかって膝を抱える。
家を飛び出してしまって帰るのはとても気が引けた。
英毅ともなんとなく顔が合わせづらい。
かといって、他に行くアテがあるわけでもなく深いため息をついた。
全身ずぶぬれになり体の熱がどんどん奪われてゆく。
だんだんと、意識が薄れてきた頃に頭の上で声がした。
「こんなところに居たのか」
見上げてみると、英毅が息を切らせて探しに来てくれた。
「別に、探しに来なくてもよかったのによ」
「たくっ、心配かけさせやがって」
全くいくつになっても世話の焼ける奴だと、呟いて英毅は意識が朦朧としている吾郎をおぶって帰っていった。
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