「悪かったな、眉村。わざわざ家まで」
「いいんだ。俺がお前の家知りたかっただけだから」
茂野家の玄関前、吾郎は少し恥ずかしそうに俯いた。
じゃぁ、またな。背中を向けていつものように門をくぐろうとして足を止める。
眉村に小さく呼ばれた気がして。
振り向くとすごい力で抱き寄せられた。
「お、おい眉村!」
「もう少し、このまま」
眉尻をさげ今にも泣き出しそうな顔で抱きしめられ、しばらく躊躇っていたが吾郎はそっと彼の背中に腕を回す。
ほんの少しの間だったが、二人にはとても長い時間に感じられた。
「すまなかった」
そっと体を離し一言だけ、呟いて彼は自転車に乗って走り去った。
吾郎は、切ない気持ちで彼の後姿が見えなくなるまでその場に佇んでいた。
この時、家のリビングからまさか英毅がその様子を見ていたとは夢にも思わず、玄関のドアをあけた。
中へ入るとすぐに英毅と目が合った。
「吾郎、お前」
「悪いけど、話は今度にしてくれねぇか。一人になりたいんだ」
英毅の言葉を遮って、まっすぐに自分の部屋へ向かう。
バタンと閉まる部屋の音を聞いて英毅は深いため息をついた。
先ほどの光景が目に浮かぶ。
玄関先で自分の息子が男と抱き合っていたのだ。
動揺しないほうがおかしい。
彼は、海堂に吾郎がいた頃感じた疑問を思い出す。
その不安は、現実となり英毅の前に突きつけられたのだ。
吾郎の部屋を見つめる彼の瞳には明らかな嫌悪感が現れていた。
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