ある晴れた昼下がり、吾郎は人気のない校舎裏に呼び出されていた。
待っていたのはいまどきの女子校生らしいミニスカートがよく似合う娘だ。
「話しってなんだよ。俺、こう見えて結構忙しいんだけど」
ポケットに手を突っ込みながら、恥ずかしそうに俯いている彼女をみる。
「茂野くん……付き合って欲しいの」
顔を上げ、目が合う。
想像していた通りの言葉に、心の中で小さくため息をつく。
一呼吸置いてから、いつもと同じ言葉を繰り返す。
「悪りぃな……俺、野球しか興味ねぇんだ」
女の子の泣き顔は見たくは無いのでさっさと踵を返し、その場を去る。
転校してからもうすぐ三ヶ月。男子の少ない聖秀でスポーツマンの吾郎はかなり目立つ。
憧れを抱く生徒も多く、もう何度も告白を受けていた。
海堂にいた頃の寿也と同じセリフを言っている自分がなんとなく可笑しかった。
ただ、自分は寿也ほど甘くなく、女性を傷つけないようにする話し方など知らない。
だるそうに歩いていると、向こうから清水薫がやってきた。
「よう、清水」
「本田」
声をかけると、駆け足で近づいてきた。
「お前、また女の子ふって泣かせてただろ?」
「あん? 何で知ってんだよ、そんな事」
「そりゃ、わかるよ。あんた有名だもん」
後ろで手を組み、近くにあった石ころを蹴りながら、薫は吾郎を見上げる。
「有名、ねぇ。野球以外で有名になっても嬉しくねぇよ」
(それに、女にゃ興味ねぇし)
心の中でそう呟く。
「本田……今、付き合ってる奴いるのか?」
面倒臭そうに言う彼の前を歩いていた薫の足がピタリと止まる。
俯き加減に、静かな声で尋ねる。ほんの少し彼女の頬が染まっていることなど吾郎は全く気がつかない。
「清水には関係ねぇだろ?」
「……関係あるよ」
「え?」
「だってあたし……本田の事……っ!」
彼女はバッと顔を上げ、言いかけて口をつむぐ。
その顔はゆでだこのように染まり、瞳が少し潤んでいた。
「俺が、なんだよ?」
「なんでもないっ! あたし、次の授業行かなきゃ。じゃぁね」
訝しがって顔を覗き込もうとする彼を振り切って、薫は走っていってしまった。
「なんだあいつ……?」
一人残された吾郎は首を傾げる。
普通の恋愛には全くと言っていいほど疎い彼は、自分に薫が好意を寄せていることなど、全く気がつかず頭には疑問符が沢山飛んでいた。
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