寿也が泊まった日から一週間が過ぎた。
吾郎は、机に突っ伏し頭を悩ませていた。
「どうしたんだ茂野。なんだか元気ねぇな」
藤井が心配そうに話しかけてきた。
「なんでもねぇよ」
「ひょっとして、彼女と喧嘩でもしたのか?」
「ちげーよ。俺にも色々あるんだよ」
椅子にもたれかかり、深いため息をつく。
グラウンドは内山、宮崎をのぞいたみんなが手伝ってくれるようになり、少しずつ前に進んでいた。
ロードワークも欠かさず行い、忙しいけど充実した毎日を送っている。
しかし、心の中には未だにどちらかに決めきれない自分がいてそれで悩んでいるのだ。
自分の気持ちに決着をつけるといった以上、早く答えを出さなくてはいけない。
あせればあせるほど、自分の気持ちがわからなくなっていく。
「ダーリンどうしたの? 元気ないわねぇ?」
目の前に中村美保がやってきて顔を覗き込む。
前かがみの姿勢で、制服の隙間から胸の谷間がちらっと見えた。
普通の男だったら、少しくらいドキッとなるのだろう。
何も感じない自分が不思議だった。
「別に、大したことじゃねぇよ」
ポケットに手を突っ込み、席を立つ。
一人になる空間を求めて、昼休みの廊下を歩く。
結局屋上に辿り着き、まだ土のないコンクリートの上に足を投げ出して座る。
十月も半ばと言うこともあり、風がほんの少し冷たく感じた。
いつまでも悩んでいても仕方が無い。
そう思って、今日の帰りはバッティングセンターへ行こうと思いつく。
悩みを吹き飛ばすには最高の場所だ。
放課後、暗くなるまでグラウンドを作り、その足でバッティングセンターへ。
しかし、打っても打っても気持ちが晴れることは無く、諦めて帰ることにした。
自転車で走っていくとこの間、眉村と話した土手が見えた。
彼とはあれ以来会っていない。
寿也とも会っていないことに気がつく。
二人とも、練習が忙しいのだろうか?
一軍の練習とはどんなものだろう? 以前静香に連れて行ってもらった一軍の消化試合は、目を見張るものがあった。
もし自分が海堂を辞めていなかったらどうなっていたのか。
当然レギュラーを取る自信は大いにある。
一軍のマニュアルというものを見てみたいような気もした。
でも、辞めてしまったものは仕方が無い。
今の学校で、自分が頑張ってチームを引っ張っていけばいいことだ。
眉村や、寿也に負けないためにも、二人への想いはしばらく忘れよう。
ゆっくり時間をかけて、考えればいい。
そう結論を出し、吾郎は家へと戻った。
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