「なぁ寿。久しぶりにゲームでもすっ……!!」
ドアが閉じられるのとほぼ同時に、寿也は彼を抱き締めた。
吾郎は驚いて、一瞬何事が起こったのかと言う表情で彼を見ていた。
貪るように彼の口腔内をまさぐり、角度を変えて舌を吸い、お互いの唾液を絡ませあう。
吾郎は抵抗するそぶりも、受け入れるそぶりも見せず腕をだらんと下げ、瞳を閉じドアにもたれかかったまま身じろぎ一つ出来ないでいた。
「ふっ」
寿也の手が、シャツの中を弄りだすと、堪らず眉をしかめる。
首筋には昨日つけたばかりのキスマークが残っており、反対側にもう一つ印をつける。
弱い部分を手や唇で重点的に攻めると、彼はとうとう耐え切れなくなったのかずるずると腰を落とした。
「寿?」
熱い吐息を洩らし吾郎は寿也を潤んだ瞳で見あげる。
「どうしたんだよ……? いつもの寿らしくないぜ」
吾郎の言葉にぴたっと手を止める。
「別に……いつもと変わらないよ」
そういう彼の身体は小刻みに震えていた。
唇をきゅっとかみ締め眉根を寄せて、苦悶の表情を浮かべる。
「寿也?」
不思議そうに顔を覗き込まれ、再び彼を抱き締める。
「お、おい。どうしたんだよ!?」
「吾郎君、今日……眉村と会ったんだって?」
寿也の腕の中で彼の肩がビクッと反応した。
目はこれでもかというほど見開かれ、顔から血の気が引いてゆくのが見て取れる。
「本人から直接聞いたよ」
「え!?」
「吾郎君を渡すつもりは無いって言われた」
まっすぐに見つめる寿也の目を吾郎は見ることが出来ないでいた。
「僕だって……君を手放すつもりはないよ」
抱き締めた腕に一層、力が入る。
「吾郎君は僕の物だ」
誰にも渡さない。
渡したくない。
その声も心も、身体も全て自分のものにしたい。
自分以外を見ないで欲しい。
眉村から真実を聞きだしたとき、この身を引き裂かれる思いがした。
吾郎の身体を自分以外の人が知っているなんて、考えたくもない。
今の寿也の頭の中は、眉村への嫉妬と吾郎への独占欲で一杯だ。
そんな寿也の気持ちが痛いほど良くわかり、吾郎は俯いた。
「悪りい。寿……俺がお前を苦しめてんだよな」
髪の毛をくしゃっとかきあげ、重々しく口を開く。
「俺、自分の気持ちにちゃんとケリつけるから……。ちょっと時間かかるかも知んねぇけど、待っててくれるか」
真剣な表情で尋ねれば、寿也は黙って頷く。
それを確認し、ホッと安堵の表情を浮かべた。
それと同時に、急激な眠気が吾郎を襲う。
「悪りぃ……俺、ねむくなった……」
「え!? ちょっと待ってよ、吾郎君!」
慌てる寿也を尻目にふらふらとベッドに倒れこむ。
今日は一日いろんなことがあったので、その疲れが一気にきたのだ。
困惑顔の彼を重たい瞼が捉える。
ベッドの横には桃子が用意してくれた客用の布団が敷かれていた。
「こっち来いよ。久しぶりに一緒に寝ようぜ、寿」
客用の枕を自分の隣に置き、自分の横をポンポンと叩く。
寿也は躊躇いながらも吾郎の隣りに寝転がった
「んー、寿……あったけぇ」
彼を抱き枕にして、ウトウトと夢の中へ。
「吾郎君、これは拷問だよ……」
寿也は、複雑な表情で眠れない夜を過ごした。
数時間後、家族が起き出す前に寿也は寮へ戻り、吾郎も早朝から学校へと向かう。
別れ際、寿也と握手を交わしそれぞれの道へ自転車を走らせる。
「じゃぁ、またね」
そう言って清清しい笑顔を見せた寿也を目に焼き付けながら、吾郎は学校へと向かった。
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