自分の声で目が覚めた。
そこは自分のベッドの上で辺りは真っ暗、まだ夜だった。
下で桃子が呼んでいる。
吾郎はボーっとする頭で、のっそり起き上がり部屋から顔を覗かせる。
「あんだよ?」
「あんたに電話。寿也君から」
桃子の言葉から、彼の名前が出て急いで階段を駆け下りる。
あまりにも慌てすぎて、最後は足を踏み外し腰を強打。
吾郎は、痛む腰を押さえながら受話器を取った。
「も、もしもし……」
声が自然と震えている。
『あ、吾郎君。君の携帯電話しても出ないから、家のほうにかけちゃった』
いつもの、優しい寿也の声。
なんだかホッとした。
「なんだよ、何か用か?」
『今から、さ……会えないかな?』
気のせいか電話口の声が震えているような気がした。
「今から? だってもう夜遅いぜ?」
『どうしても、今すぐに会いたいんだ』
吾郎は時計をチラッと見た。
時計の針はもうすぐ八時を指そうとしている。
「会うのは構わねぇが、お前どうやって帰んだよ?」
『今晩……君の所へ泊めてよ』
切羽詰った様子の彼に、ただ事ではない何かを感じ吾郎はしばらく考えてから、会うことを決めた。
自分の気持ちを整理したかったし、彼が何を考えているのかを知りたかったから。
「母さん、今日寿也が泊まる事になったから」
「ええ!? こんな時間から?」
「ああ急で悪りいけど、大事な話しがあるんだ」
目を丸くして、驚く桃子を尻目に吾郎は入浴を済ませ、寿也の到着を待った。
外で投球練習をしていると、自転車のブレーキ音が聞こえてきた。
「よぉ、早かったじゃねぇか」
庭から声をかけると、彼は恥ずかしそうに笑う。
「ゴメンね、急に押しかけちゃって」
「いいって迷惑なんかじゃねぇし。とりあえず中に入れよ」
促されるままに家に入り、きちんと靴を揃えて、リビングから顔を覗かせた桃子にペコリとお辞儀する。
「すみません、こんな夜遅くに」
「おい、何やってんだよ寿、挨拶はいいから早く部屋に来いよ」
「あ、うん」
吾郎は寿也を招きいれた後、顔だけ少し覗かせて階下にいる桃子に念を押した。
「大事な話だから、誰も入ってくんなよ」
バタンと閉まる扉の音を聞いて桃子はため息をついた。
最近の吾郎は、帰りが遅かったり怪しい行動をしている。
そういえば、この間の花火大会の時も彼が一緒にいたような気がする。
何か、二人だけの秘密でもあるのだろうか?
色んな疑問が浮かび上がる。
吾郎も気が付けばもう十六歳だ、秘密の一つや二つあるだろう。
もうそんな年頃になったのかと、少し寂しい思いがする。
桃子は閉じられた扉を見つめもう一度ため息をついた。
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