「なんかあったのか?」
人気のない川沿いの土手に腰を下ろし吾郎は彼を見つめた。
「なんも無かったらお前がこんなとこに来てあんなことしねぇよなぁ」
「……」
彼は俯いたまま口を開こうとしない。
吾郎は困って、後ろ髪を掻いた。
「おいおい、黙ってんなら帰るぞ俺」
スクッと立ち上がった吾郎の腕を眉村が掴む。
「佐藤が、昨日お前に会ったって、自慢してたから……」
「は?」
佐藤と言われ、一瞬誰のことを言っているのかわからず思案する。
「お前を抱いたって聞いて、いても立ってもいられなくなって……スマン」
「本当に、んなこと寿也が言ったのか!?」
吾郎の言葉に、彼は黙って頷く。
「ちょっと待て、てことは一軍の連中に俺と寿也の関係がばれたって事だよな? 寿也のヤツ、なんで……」
サーっと血の気が引いてゆく。
「イヤ違う。アイツは俺だけに言ったんだ」
「え?」
顔が引きつる。何のためにそんな事を。
「多分、俺とお前のの関係に気が付いて宣戦布告してきたんだろ?」
「気が付いた!?」
「夕べ勝ち誇ったように俺を見てたからな」
その場の様子を思い浮かべ、ゾッとする。
「で、でも寿也、俺には何も……」
「言うわけないだろ。ただでさえ会える時間も少ないのに、喧嘩したらそれこそ終わりだからな」
喧嘩するくらいなら、我慢して楽しい時間を過ごしたほうがいいって事。
確かに、そうかもしれない。
でも、もし自分が寿也の立場ならきっと激昂してしまうだろう。
殴り飛ばしているかもしれない。
(俺、ひどい事してるんだよな)
胸の奥がズキズキする。
俯いてすっかり黙ってしまった吾郎に、眉村は以前から聞きたかったことを思い切って聞いてみる事にした。
「お前は俺と佐藤、どっちを選ぶんだ?」
「お、俺は……」
ドキリとした。
自分でも考えないようにしていた事だったから。
寿也のことはもちろん好きだ。
一緒にいて楽しいし、声を聞くと安心できる。
でも、
眉村といるのも好きだ。
いつもクールな彼が自分のためだけに見せる表情がすっごくドキドキする。
眉村の野球を見ると、同じ投手として負けたくないと思うと同時に憧れも抱いていた。
「わっかんねーよ。俺、二人とも好きだから、選べねぇ」
両膝を抱え、俯き考える。
どちらも同じくらい好きだ。
選ぶことなんて、とても出来ない。
「そうか……。でも、俺は佐藤には負けるつもり無いから」
その言葉にドキッとする。
以前、彼の気持ちに答えられないと返事をした時も、眉村は「諦めない」
とまっすぐな瞳で見つめてきた。
寿也と付き合っていても気にしないとも言われた。
そのまっすぐな思いが、胸にズシンと突き刺さる。
その時、携帯が鳴った、帰りが遅いのを心配した桃子からだ。
「俺、もう帰らねぇと」
立ち上がった吾郎を眉村が引き止め、彼の体を包み込む。
吾郎の心を表すかのように辺りの木々がざわめきだした。
優しくそっと抱きしめられ、吾郎はためらいながらも彼の腕に自分の腕を絡ませる。
お互いの心臓の音が混ざり合い、熱い吐息が鼻に触れる。
「行かないでくれ」
強く抱きしめられ、唇を塞がれる。
強引に閉じている口をこじ開け、開いた隙間に舌を割りいれる。
「ふ……」
息をつくほんの少しの合間も惜しいのかすぐに唇を塞ぐ。
吾郎は、自分の体重を支えきれなくなり、かくんと膝が折れた。
慌てて眉村が受け止め、吾郎はケホケホッと咽返る。
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