「茂野?」
名前を呼ばれ、近づいてみると間違いなくそれは眉村だった。
「なんでお前がココにいるんだよ」
吾郎は信じられない気持ちでいっぱいだった。
彼は寿也と同じ一軍昇格を果たし、今日も練習があるはずだ。
立ち止まったまま足が動かない。
周りはすでに暗くなり、先ほどまで彼を囲んでいた生徒たちももういない。
ゆっくりと彼は近づき、吾郎をぎゅっと抱き寄せた。
そのあまりの力強さに、身体がバランスを崩し校門の壁に押し付けられ、肩にかけていたかばんがずり落ちる。
「お、おい。眉村!!」
必死に抵抗を示すが、強い力で抱きしめられ身動きが取れない。
「逢いたかった……」
そっと囁かれ、胸が高鳴る。
眉村は何も言わずにただ彼を抱きしめる。
まだ他の生徒が残っているかもしれない、こんなところを見られたら大変だ。
そう思う気持ちと、彼にあえて嬉しさに戸惑う気持ちが混同してぐちゃぐちゃになる。
「吾郎……」
名前を呼ばれハッと顔を上げる。
愛しいそうに見つめられ目が離せない。
ついっと顎を持ち上げられ、息がかかるほど近くに彼の顔があって、恥ずかしさに耐え切れず思わず顔を背けた。
「おい、止めろってっ!!」
首筋に唇を這わせ、汗で湿ったシャツに手を入れる。
閉じた両足の間に右足をいれ壁に押し付けられた。
ビクッと全身が強張る。
「馬鹿、ダメだって……こんなとこ誰かに見られたら……っ」
なおも抵抗を見せる吾郎を無視するかのように、シャツを捲くり胸に唇が触れる。
「俺、困るって……っ。頼む、健止めてくれよ」
切なげな表情で訴える彼に、眉村はピタッと手を止めた。
抱きしめていた手を離し、ばつが悪そうに俯く。
吾郎は、その場に力なく座り込んだ。
「悪かった」
目を合わすことなく、俯いたまま眉村は立ち尽くす。
「別に怒ってない。……ちょっと場所変えようぜ」
少しばかり冷えてきたので制服のブレザーを羽織り落としたかばんを肩にかけ、眉村の手を取る。
彼の手は、じっとり汗ばんで余裕の無さがうかがえた。
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