寿也はずっと、スクリーンではなく吾郎の方へと視線を向けている。
「吾郎君、こっち見てよ」
「……」
吾郎は、寿也の瞳を見れないでいた。
一度瞳を合わせたらキスをしたい衝動に駆られ、止まらなくなる。
そんな気がしていた。
「……あのさ、これが終わったら僕の家こない? 今日おじいちゃんも、おばあちゃんも出かけちゃっていないんだ」
「ここでは、何もしないって約束すんなら行ってやってもいいけど?」
「わかった。約束するよココでは何もしない」
それだけ言うと再びスクリーンに視線をうつした。
これが終わったら、寿也の家へいける。
そう思うと、心臓の音が彼に聞こえてしまうんじゃないかと思うほどドキドキしていた。
当然、映画に集中できるはずも無い。
ぎゅっと彼の手を握り締めたまま、ただ黙って俯いていた。
「適当にその辺座っといて。今飲み物持ってくるから」
映画が終った後、そのまま彼の部屋に行き、ドキドキしながら床に座る。
(そういえば、寿の部屋って初めてだ)
部屋の中を見回すと、野球グッズが多い吾郎の部屋とは対照的に本棚にはぎっしりと本が並んでいる。
とてもきれいに片付いていて、清潔好きの彼らしいシンプルな部屋だ。
「ねぇ」
唐突に、すぐ後ろから声をかけられドキッと身を硬くする。
「そんなに意識されたら、僕のほうが照れちゃうんだけど」
「ば、ばかっ誰がっ……」
「まぁ、僕も意識してないって言ったら、嘘になるけどね」
肩を抱かれ、視線が合う。
そしてそのまま壁にもたれて、吾郎は彼の背中に腕を回す。
彼の手は吾郎の服の裾を捲り、その肌の感触を味わう。
「ちょっと待て」
「なに? 今更、イヤだなんて言わないでよ」
「言わねぇけど、ホントにお前のじぃさんたち戻って来ないんだろうな?」
伏目がちに尋ねられ、返事の変わりに首筋にキスをする。
「大丈夫だよ。まぁ戻ってきても、僕は気にしないから」
「え!? それはやばいって!」
慌てて身を退こうとする吾郎を、がっしりと捕まえ耳元で囁く。
「嘘だよ、絶対に戻ってこない」
深い緑色の瞳が吾郎を捉え、真剣にジッと見つめる。
「だから、僕を受け入れてくれる?」
そう尋ねられ、吾郎は躊躇いながらゆっくりと頷いた。
それが、始まりの合図になった。
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