「やっベー遅刻だ!!」
急いで家に戻り、服を着替えて時計を見ると約束の時間を既に十分も経過していた。
そのまま大慌てで自転車に乗り約束の場所へと向かう。
(寿、もう待ってねぇかも)
そんな不安を抱きながら、恋人の姿を探す。
「……遅かったじゃないか。吾郎君」
後ろから声をかけられ、振り向くと数週間ぶりにあう寿也の姿があった。
少し背が伸びて、肩周りも以前より大きくなったような気がする。
「悪りい。どのくらい待った?」
「うーん、三十分くらいかな」
はぁはぁと息を切らせ、もうすぐ十月だと言うのに汗びっしょりの彼を見て寿也はクスッと笑った。
「吾郎君が遅刻するのは、いつものことだから気にしてないよ」
遅れたのが三十分なんて早いほうだ。と言われ言葉を失う。
「僕お腹すいたんだけど、吾郎君は?」
「俺も。どっか食いに行こうぜ」
二人は並んで近くのファーストフードへ向かう。
ハンバーガーや、ポテトなどを頼んで席につく。
さすがに、日曜日の昼間とあって店の中は一杯だった。
「今日は、どこ行こうか?」
「どこでもいい。寿の行きたいとこで」
そういいながら、早くも二個目のハンバーガーを口にする。
相変わらずのすごい食欲に、寿也は半ば呆れながらジュースに口をつける。
「じゃぁさ、映画見に行こうよ」
「映画!?」
じっとしているのが苦手な彼は、思わず手に持っていたポテトを落としてしまった。
「おい寿、俺絶対寝ちまうぞ。それでもいいのか?」
「うん、大丈夫。吾郎君は絶対眠ない」
「……?」
自信ありげな様子に、吾郎は首をかしげた
映画館につくと、一番後ろの端っこに荷物を置く。
あまり人気のない映画なのか、客足はまばらだった。
「おい寿、もっと真ん中じゃなくていいのかよ?」
「ここがいいんだよ」
そう言ってにっこりと笑う。
不思議に思ったが、映画が始まってしまったため仕方なくそのまま座る。
十分くらい経った頃だろうか、やはり吾郎は睡魔に襲われこっくりこっくりしていた。
その時ふっと、太腿に違和感を覚え目を覚ます。
見てみると、いつの間にか寿也の手が彼の太腿をさすっていた。
「寿!」
「目が覚めただろ?」
そう言って、クスッと笑う。
太腿をただ撫でられているだけなのに、周りの人に気付かれるんじゃないかとドキドキする。
「覚めたよ完璧。だから、止めろ」
「じゃぁ、せめて手を繋いでくれるかい?」
そう言われ、そっと手を繋ぐ。
触れ合った手はとても暖かく、懐かしかった。
この間触った清水の手よりも筋肉質で柔らかさも無いが、それでも愛しいと感じてしまう。
繋いだ指先から、お互いの思いが通じ合っているような心地の良い感覚に身を委ねる。
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