『吾郎君? 僕だけど今、いいかな』
耳に馴染んだその声はとても心地がいい。
吾郎は、シャツの比較的汗で濡れていないところを引っ張り顔の汗を拭う。
「なんだよ、なんか用事でもあるのか?」
『用事がなかったら、かけてきちゃダメなわけ?』
「そうじゃねぇけど」
『キミの声が聴きたくなってさ。電話したんだけど、迷惑だった?』
自分と同じ事を彼も考えていてくれたんだと思うととても嬉しくて、なんだか恥ずかしい気分になる。
「俺も、同じこと考えてた」
『ホントかい!? なんだか嬉しいな』
電話越しに伝わる相手の気持ち。
離れていても思いは同じだと、ホッとする。
それからしばらく、他愛のない話をしていた。
寿也たちが一部を除いて一軍昇格を決めたこと、寮が厚木の近くにある一軍寮へ変更になったこと。
そんな話をしていた。
『ねぇ、吾郎君。今度の日曜日空いてるかな……会いたいんだけど』
そう言われ、二つ返事でOKしようとして思い出す。
その日は、大切な野球部入部をかけた大切な試合の日だ。
でも、寿也にも会いたい。
しばらく考えて、試合が完全に終わっていると思われる昼から会う約束をして電話を切った。
そして日曜日、色々あったものの、帝仁高校との試合にもなんとか勝利を収め、さらに田代と言う新しい恋女房を見つけることが出来た。
「おい、茂野これからみんなでどっかに遊びに行かねぇか?」
「藤井……お前はまず病院だろ?、それに俺、ちょっと大事な用があるんだよ」
未だ興奮冷めやらぬ様子の藤井に声をかけられたが一刻も早く寿也の元へ行きたかった。
吾郎は、バスが来るのも待っていられず、
「じゃぁな」
と、言い残して走って行ってしまった。
「なんだ、あいつデートか……?」
「え!?」
藤井の言葉に女性二人が反応したのは言うまでもないだろう。
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