彼のあからさまに不自然な態度に、ツッコミを入れてやりたかったがグッとこらえる。
吾郎はテーブルを挟んで向かい側に座った。
(僕と距離を取ってる)
いつもなら、すぐ隣に座る彼が今日に限ってテーブルを間に挟んでいる。
何か隠し事がある証拠だ。
「早く、吾郎君に会ってこの間のこと謝りたかったから」
寿也は自分の気持ちを押し殺し、できるだけ笑顔で答えた。
少し頬の端は引きつっていたかもしれないが。
「この前って……喧嘩のことか」
「そうそう、僕もちょっと言い過ぎたかなって思ってさ」
喧嘩の発端は、吾郎が野球部のない聖秀へいくと言う話を聞いたところから始まった。
何でそんな馬鹿げたことをするのだと、つい口に出してしまったのだ。
寿也にはとても理解できる事ではなかった。
常勝海堂を倒したいから出て行く。そう言っていた彼がなぜ、野球部のない高校へ行くのか。
素人を集めて、海堂に立ち向かうなんて無謀すぎるにも程がある。
電話越しにお互いの意見が平行線をたどり、結局寿也が頭にきて、先に切ってしまったのだった。
「吾郎君は昔からそうだった。リトルのときも、三船東の時も……。不可能だってみんなが思ってることでもやってのけちゃうんだよね」
その努力は凄いと思う。
自分に厳しく、あえて茨の道を選ぶ彼は他の人には到底真似することは出来ない。
「頑張りなよ」
てっきり怒られて、昨夜の出来事を追及されると思い込んでいた吾郎は、ぽかんと口をあけたまま放心状態だった。
そのあまりにも間の抜けた顔に思わずぷっと吹き出す。
「何で笑うんだよ」
「だって、変な顔してたから」
「変な顔って、ひっでぇな」
そう言って二人は笑いあう。
「……吾郎君」
「なんだよ?」
ふっと真面目な表情になる彼。
「久しぶりに、君の球捕りたいな」
「ああ、いいぜ」
庭に出て、ミットを構える寿也の姿がとても懐かしく、全力で投球する。
ミットに吸い込まれるような吾郎の豪速球を受け、その重みを実感した。
やはり、彼はすごい。
彼の球を受けるたびに、懐かしい日々が甦る。
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