吾郎が彼の家を出た頃、茂野家のインターホンが鳴った。
桃子がドアを開けると、寿也が立っていた。
「あの、吾郎君は」
「吾郎なら夕べから帰ってないわよ」
「帰って……ない?」
桃子の言葉に、寿也は表情を強張らせた。
先ほどの彼との電話がどうにも不自然に思えて、直接確認しに来たのだ。
「昨日、突然の大雨だったでしょ? それで、帰れなくなっちゃったみたいで……確か眉村君のとこに泊まるって言ってたけど」
眉村と言う単語に彼の眉根がぴくっと反応する。
思考がしばらく止まり、顔をしかめて唇がわなわなと震えた。
「多分もうすぐ戻ってくると思うから、吾郎の部屋で待ってたら?」
促されるままに階段を上り、主のいない部屋に腰を下ろす。
桃子が気を利かせてクーラーを入れてくれたため、ムシムシしていた部屋が次第に過ごしやすくなってゆく。
一人になって、寿也は思案に暮れた。
どうして、彼は眉村の家に泊まったのか。
そこで一体何をしていたのか。
昨夜自分が電話を入れたとき、出なかった理由は?
様々な疑問が浮かんで、頭から離れない。
部屋に戻ってきたら、問い詰めて全てを白状させようか?
しかし、折角この間の喧嘩の仲直りに来たのに、ここでギクシャクしてしまっては後味が悪い。
あと一週間もすれば夏休みも終わり、すぐに一軍昇格のテストを受けなければいけないのに。
一軍に合格する自信はないが、もし受かったらこれから遠征などで会える時間が今以上に少なくなってしまう。
夏休み中に会えるのはたぶん今日が最後だ。
だからこそ、仲直りがしたい。
色々考えた末、今回のことに関しては一切触れないことに決めた。
別に、吾郎に追求しなくてももう一人から聞き出せばいいのだから。
そんなことを考えていたら、入り口がそーっと開くのが見えた。
「お帰り、吾郎君」
「よ、よう。寿! ずいぶん早かったんだな」
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