一言でもしゃべると、声が洩れそうになって、思わず口を噤む。
「ご、午前中はぁ……バイト入ってっから……夕方なら……ぁっいいぜ」
『そう、わかった。夕方だね』
必死の言い訳を疑うそぶりも無く電話はあっさりと切れてしまった。
「ふ……このヤロ……わざとしやがって」
睨み付けて見るものの、全く動じていない眉村はさらに刺激を与える。
「あ……んっ」
下着の中に手を入れられ、身悶える姿がまた官能的で堪らない。
「やらしい体だな。腰上げて」
「や……っダメだって……ぁっ」
吾郎が身を仰け反らせた瞬間、玄関の開く音がした。
「やばい。お袋帰ってきた……」
「!!」
トントンと階段を上る足音が近づいてきて、吾郎は慌てて、はだけたシャツを調える。
「健? 玄関に靴があったけど、お友達が来てるの?」
ガチャッとドアが開いて、すらっとした女性が姿を現した。
気まずい空気が室内を漂う。
「あら、こんにちは。珍しいわね健が友達連れてくるなんて」
「あの、俺もう帰ります……」
顔から湯気が出そうなほど真っ赤になりスクッと立ち上がると、そそくさと玄関へ向かう。
「おい、待て!」
眉村もその後を慌てて追いかける。
「おい、その格好で帰るつもりか?」
「しかたねぇよ。服はいつでもいいから」
「送っていこうか?」
眉村が心配そうにしていたがぶるぶると首を振った。
「いいって。チャリで帰るから」
「だってお前、昨日アレだけヤッて足ガクガクだろ? 自転車なんか乗れるのか?」
「……っ!! いいんだよっ。とにかく、一人で帰れるから。じゃぁな」
そういって自転車に乗りよろよろしながら戻っていった。
(耳まで真っ赤になって……面白い奴だな)
プッと吹き出しながら、眉村はそのマヌケな後姿を見送った。
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