「それにしても、お前の両親こんな遅くまで働いてんのか?大変だなぁ」
眉村は、勝手にテレビをつけ我が物顔でソファに座っている吾郎を見つめ静かに告げた。
「今日は、帰ってこないぞ」
「え?」
「親父は出張中。お袋は今夜は夜勤だ」
吾郎の顔からみるみるうちに血の気が引いてゆく。
「ひょっとして……今夜は……」
「俺と、二人っきりということになるな」
しばしの沈黙の後、吾郎はスクッと立ち上がる。
「……俺、やっぱ帰る」
身の危険を感じ、自分のかばんを肩にかけたところで腕をつかまれた。
「は、離せよ」
「イヤだ。離さない」
ぐいっと引き寄せられ、強い力で抱きしめられた。
前にも、こんなことがあったなと吾郎は思い出す。
あの時、彼は寿也が恋人でも構わない、気持ちはずっと変わらない。
そう言った。
その想いは今でも変わっていないのだろうか。
吾郎はなんだかくすぐったい気持ちになった。
「わかったから離せよ。どこも行かねぇから」
どのみち、こんな雨の中では外に出られそうもない。
眉村のことは嫌いではない。どちらかと言うと好きだと思う。
無口でマイペースだけど、不意に見せる優しさについドキリとしてしまう。
マウンドに上がる彼の絶対的な存在感は同じ投手としても見惚れるものがある。
そんな事を考えていると、急に稲光がひかりドシャァァァァン!!と言う爆音がしてパッと停電してしまった。
「うぎゃぁぁぁ!!」
あまりの音の大きさに驚いて、思わず眉村を押し倒してしまった。
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