「大したことじゃねぇよ。ちょっと喧嘩してるだけでさ」
食後、店を出て近くの公園でしばらく話をする。
辺りはもう真っ暗で、空には分厚い雲が覆い始めていた。
夕立を警戒して帰宅途中の人々が家路を急いでいる。
寂しそうな表情をする彼を、眉村はただ黙ってみていた。
自信過剰な吾郎がこんなに落ち込む程なのでよほどのことがあったのだろう。
「俺でよかったら、相談にのるぞ」
「へぇ、珍しいじゃん。天下の眉村が人生相談に乗ってくれるなんて。お前、相談に乗ってやるって柄じゃねぇだろ?」
「……」
ハンっと鼻で笑い、眉村に背を向けて思い切り伸びをする。
「なぁんてな。ホント、大したことじゃねぇし、大丈夫だから……気持ちだけ受け取っておくわ」
チラリと横目で見ながら表情を和らげる。
公園の真ん中の時計に目をやるともう八時前だ。
「いっけねぇ、俺帰んなくっちゃ」
またな。と手を振って帰ろうとしたその時、突然ざーっと雨が降ってきた。
あっという間に二人は全身びしょ濡れになってしまった。
「茂野、お前のうちココから遠いのか?」
「ああ、ちょっとばかしな」
近くの店先で雨宿りをしながら、雨がやむのを待っているが当分やみそうも無い。
「俺の家、すぐ近くだから。このままだと風邪引くぞ」
「いいって、俺は別に」
「いいから来い」
「わっ、ちょ、待てよ眉村」
強引に腕をつかまれ、仕方なくついて行くことにした。
彼の家に着くと、まだ誰も帰っていないのか、部屋の中は真っ暗で少しムシムシしていた。
「茂野、着替え貸すから、着替えろよ。服乾かさなきゃいけないし」
タオルと着替えを渡され、少し戸惑いながらも着替えを済ませる。
眉村のシャツはほんの少しだけ大きくて、洗い立てのいい香りがした。
「悪いな、着替えまで借りちまって」
髪の毛を拭きながら、着替え終わった彼を見て、眉村は一瞬ドキッとしてしまった。
雨は未だにザーザー降りで一向にやむ気配はない。
「茂野、今夜泊まっていけ。こんな雨じゃ、傘さしてもまた濡れるだけだ」
「え? マジでいいのか。助かるぜ! お前案外いいやつなんだなー」
全く警戒していないのか、吾郎は自宅へ電話を入れる。
電話に出た桃子は驚いていた。
吾郎が友達の家に外泊するなど、今までなかったからだ。
もしかして、本当に彼女でも出来たのではないかと桃子は不安になった。
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