海堂編

LoveSick


バイトの時間を終え、着替えてクーラーの効いた店内から外に出ると一気に蒸し暑さが全身に纏わりついてくる。

今日はこんなに暑かったのかとうんざりしていると、駐車場の日陰にぽつんと立っている人物に気がつく。

「あれ? お前さっき帰ったんじゃなかったのかよ?」

不思議そうな顔をしている吾郎に気がつき近づいてくる。

「お前を待ってたんだ」

相変わらずの無表情で言われ、ぽかんと口を開ける。

「これから、バッティングセンターにでも行かないか?」

「バッティングセンター!? 行く行く!」

目をキラキラ輝かせて、喜ぶその姿に眉村はふっと笑みを零した。

丁度、寿也のことで悩んでいたからバッティングセンターはストレス解消にもってこいの場所だ。

吾郎が一通りスウィングして戻ってくると、眉村は一四〇kのカーブをいとも簡単に打ち続けていた。

(やっぱすっげーな、眉村の奴)

久しぶりに見た彼のバッティングは少しだけかっこよく見える。

眉村がバッターボックスから出てくると、同時に吾郎の腹の虫が鳴った。

ギュルルルルル……。

あまりに大きな音なので、彼はぷっと吹き出して笑う。

「笑うなよ、しかたねぇじゃん。腹減ったんだから」

「じゃぁ、どっか飯でも食いに行くか?」

そう言って、吾郎の返事も聞かず店を出る。

こっちの都合を一切無視して行動する所は、寮に居た頃と殆んど変わっておらず、思わず失笑が洩れた。

「なんだ?」

「んにゃ、変わってねーなと思ってさ」

「何を言ってるかわからんな。一ヶ月足らずで激変する人間の方が珍しいだろ」

「ハハっ、そりゃそーだ」

他愛もない会話を交わしながら、最寄のファミレスに足を運ぶ。

丁度時刻は七時を過ぎた頃で、辺りもだんだん薄暗くなって来ていた。

店には家族連れが大勢いてとても混雑していた。

二人は案内された場所に座り、料理を注文する。

「なぁ、男二人でこんなとこ来て変じゃねぇ?」

「別に。茂野の腹だったらその辺のファーストフードじゃ足りないんじゃないのか?」

「確かにそうだけどよ……」

吾郎は冷えたグラスに口を付けながら、視線を窓の外にうつす。眉村は黙って彼の様子を見ていた。

しばらくして、料理が運ばれてくる。

吾郎はカツカレーを注文し、がつがつと食べ始める。

そんな彼の様子を見ながら、眉村はふっと真剣な表情になった。

「茂野、佐藤と何かあったのか?」

「……っ、何だよ突然」

危うく喉に詰まらせそうになり、水をごくごくと飲み干した。

「いや、さっきバイト姿のお前が元気が無いように見えたから」

「……」

すっかり黙ってしまった彼を見て、自分のカンは間違っていないと思った。


/ススム

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