翌日からはすっかりいつもの『佐藤寿也』に戻っていた。
いつもと変わらない様子で朝から練習に励んでいる。
その後、専用バスに乗り込み学校へ行くと、靴箱の中に一通の手紙が入っていた。
差出人は不明。
可愛いウサギのついた封筒に入っている。
昼休み校舎裏でまっていると書いてあった。
散々悩んだ挙句、指定された時間に足を運ぶ。
人気のない所に小柄な可愛い女生徒が立っていて友の浦中学にいた、後輩の彩音ちゃんに雰囲気がとてもよく似ている。
何度か見かけた事はあるけれど、名前も知らない娘だった。
「僕に話って何?」
「佐藤くん、ずっと好きだったの」
俯いたまま、耳まで真っ赤に染めて返事を待っている。
あぁ、またか。 予想どうりの言葉に寿也はひっそりと息を吐いた。
「ゴメン、僕は君の事あまり知らないから、付き合えないよ」
「友達からでも、いいの」
「僕は今、野球のことで頭がいっぱいなんだ。それに……」
好きな人がいるから。そう言おうとしたとき、微かに後ろで誰かの気配がした。
直感でそれが吾郎だとわかった。
「本当にごめん」
きっぱりと断られ、女生徒の顔はみるみるうちに涙で歪んでいく。
あまりのショックに女の子は顔を覆って走り去ってしまった。
「――覗き見なんて、ずいぶん悪趣味だね吾郎君?」
いきなり名指しされ、吾郎は申し訳なさそうに顔を覗かせた。
「いやぁ、別に聞くつもりなかったんだけどよ、偶然居合わせちまって」
「いいよ別に。聞かれて困ることじゃないし」
ばつが悪そうに頭を掻きながら、右手に持った紙袋を寿也に手渡す。
「昼飯、まだだろ? 一緒に食べようぜ」
「うん。ありがとう」
二人で近くの芝生に腰を下ろし、ジュースとパンを広げる。
「でもよ、友達ぐらいにならなってやってもよかったんじゃないか? 結構可愛かったじゃねぇか」
パンを口に頬張りながら、さっきの娘の話を持ち出す。
ぶっきらぼうで野球一筋の吾郎は、ラブレターをもらったことがない為にふってしまうなんてもったいないと感じているのだ。
「絶対好きになってあげれないのがわかっているのに、中途半端な気持ちで優しくして、変に期待を持たせたらあの子が可哀想だろ?」
「お前、そうやって告ってきたやつみんなふってんだろ? 確かに寿也の言い分もわかるけど」
彼はまだ何か納得できない様子だ。
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