――ジリリリリリリリリ――。
目覚ましの音が鳴る。
いつもなら、すぐに寿也が止めて、吾郎を起こしに梯子を上ってくるのだが、今日に限っては、目覚ましを消す気配もない。
さすがに鳴り続ける目覚ましの音で、寝起きが悪い吾郎も目を覚ました。
「おーい、寿也。目覚まし鳴ってるぞ」
欠伸をしながら呼んでも答えは返ってこない。
不審に思って、上から覗いてみると、布団を目深にかぶって寝ている姿が見える。
(珍しいな)
そう思って、寿也の身体を揺さぶって起こそうとする。
肩に触れた瞬間、彼の身体がものすごく熱を持っているのに気がついた。
目覚ましを止め、彼の額に手をやると、すごい熱である。
「おい、寿! 大丈夫か?」
「おはよう、吾郎君。ごめん今日頭、痛くって」
起き上がろうとする彼を慌てて布団に寝かせる。
「今日は一日寝てろよ。監督には俺が言っておくから」
寿也は静かにコクンと頷いた。
着替えを済ませ、準備をしてもう一度寿也の様子を見にいく。
彼は荒い息を繰り返しながら、ウトウトとしていた。
吾郎は後ろ髪をひかれる思いで朝練へ出かけた。
(アイツ、なんだかんだ言っていっつも無茶するから……)
グラウンドを一人で走りながらも寿也のことが心配でたまらない。
朝練を終え、部屋に戻ってきても寿也はぐったりしていた。
「寿、俺もう、学校行くけどちゃんと寝てなきゃダメだぞ」
「うん、わかった」
「薬貰って来てやったから、ちゃんと飲めよ」
「うん」
あんなに元気の無い寿也を見たのは初めてで、吾郎は授業中も何か自分が寿也のために出来ることは無いのかと必死になって考えていた。
学校が終わると、すぐに寿也のところへ飛んでいく。
自分の部屋へつき、そーっとドアを開ける。
眠ってはいたものの、額にはたくさん汗をかいていた。
今日は幸いにも午後の練習は無いので、吾郎は看病することにした。
とりあえずタオルで顔の汗を拭い、医務室でもらってきたヒエピタをおでこに当てる。
その冷たさに驚いて寿也が眼を開けた。
「わりぃ、起こしちまった。具合どうだ?」
「うん、吾郎君の顔見たら少し元気になったよ」
ホッとした表情を浮かべるが、テーブルの上に残っている食事に目をやると、全く口にしていないことに気付く。
「おい寿也。ちゃんと食べないと元気でねーぞ」
「判ってるけど、食欲ないんだ」
「なにか、食いたいもの無いのか?」
そう聞かれて、ちょっと考えてから寿也は、「りんごが食べたい」と、呟いた。
「よし、りんごだな。ちょっと待ってろ」
言い残し、食堂へ向かう。
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