十二月三十日海堂高校野球部も、やっと冬休みとなる。
寮生たちはそれぞれの荷物を詰め、自宅へと戻ってゆく。
吾郎と寿也も帰り支度を終えて、寮を出るところだ。
「じゃぁ、またね」
にこやかに手を振りそれぞれの家へと向かう。
「お帰りなさーい。吾郎兄ちゃん!!」
一番に出迎えてくれたのは吾郎の弟、真吾だった。
「よぉ、真吾。いい子にしてたか?」
「うん! だって僕、お兄ちゃんになるんだもん」
大好きな兄が帰ってきて大喜びの真吾は、早速一緒に野球のゲームをやろうとおお張り切り。
「お帰り、吾郎」
「おう、ただいま」
身重の桃子と、英毅も笑顔で出迎えてくれる。
リビングにかばんを置くと、台所からはカレーのいい匂いが漂ってきた。
「今日は、カレーか。うまそうだな」
鍋を覗き込み、ちょっとつまみ食い。
そこへ真吾がやってきて、ゲームをやろうと大騒ぎ。
久しぶりの一家団欒は、なんだか少し気恥ずかしい感じがした。
夕食後、幼い弟を寝かしつけ吾郎は寿也の元へと電話をかけた。
「はい、佐藤です」
すぐさま寿也の声が受話器の向こうから聞こえてくる。
「あのさ、俺だけど」
「吾郎君!? どうしたの!?」
相手が吾郎だとわかり、心なしか声が浮き足立っているように聞こえる。
「別にたいした用じゃないんだ。正月の話なんだけど、一緒に初詣にいかねーか?」
「……ごめん。正月は僕ちょっと忙しくて、会えないんだ」
「そっか、じゃあ仕方ねーか。 悪かったなこんな夜遅くに」
「ううん、声が聞けて嬉しかった」
また新学期に会おうね、と言って電話を切る。
受話器を置くと、思わず溜息が洩れた。
用事があるのは仕方がないことだが、新学期まで会えないと思うと少し寂しかった。
とぼとぼと階段を上り部屋に戻る。
「なにかあったのかしら?」
珍しく落ち込んでいる吾郎を見て、桃子が不思議そうな顔をした。
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