部屋に戻り、寿也の横に座りなおすと彼はまだ眠っていた。
顔の表情も朝よりはずいぶんと良くなっていたが、まだつらそうだ。
睡眠も浅く、少しの物音で目を覚ましてしまう。
「気分はどうだ?」
うっすらと目を開けたので、心配そうに覗き込む。
「うん、平気」
「汗かいただろ? 着替え手伝ってやるから、脱げよ」
「えっ、イヤだよ」
慌てて隠れる彼の布団を力づくで引きはがす。
「なに今更、恥ずかしがってんだよ? もう何度も見てるじゃねーか」
半ば強引に着ているものを脱がせ、用意していたお湯で身体を拭いてやる。
「ごめん。吾郎くん」
「なんだよ。謝んなって、俺が勝手に世話したいだけなんだから」
背中を拭きながら、早く元気になれよ。と呟く。
寿也もコクンと頷いた。
上半身を拭き終わり、新しいシャツと着替えを手渡す。
「吾郎君、もちろん下もやってくれるんだよね?」
洗い立てのシャツに身を包み、気分もだいぶスッキリしてきた寿也はいつもの調子を取り戻しつつ、含みをこめた言い方をする。
「わかってるよ。足は拭いてやるから」
そういって腰をかがめ自分の足を拭いてくれる彼を、寿也はじっと凝視した。
「なんだよ、そんなに見るなよっ」
「んー、なんかその姿勢がすっごくエッチだなぁって」
すっかりいつもの調子に戻った寿也はふふっと笑った。
太腿の辺りまで拭いていた吾郎の手がピタリと止まる。
しばしの沈黙。
「そんなに元気なら、後は自分でやれ」
「えーっ、世話してくれるって言ったじゃないか。最後までやってよ」
ぶーっとほっぺたを膨らませ文句を言う。
「バカ言ってんじゃねー」
「じゃぁ、せめて口で……」
その言葉に、吾郎は思わず顔を引きつらせた。
「たくっ、風邪引いてるときくらいおとなしく寝てろっての」
捲り上げていたズボンの足を伸ばし、布団をかけて無理やり寝かせる。
まったく、こんなに熱があるのに何を考えているんだ。と呆れてしまう。
「吾郎君」
「あんだよ? まだなんかあるのか?」
「一緒に寝ようよ」
「あのなぁ、寿也。お前病人なんだから、一日くらいガマンしろよ。手ぇ握っててやるから」
寿也はまだ何か言いたそうなそぶりを見せていたが、吾郎が手を繋ぐと黙って微笑んだ。
「じゃぁ、治ったら口でシテ?」
「ああ、わかった、わかっ……え!?」
適当に相槌を打っていた吾郎が凍りつく。
「約束だよ。吾郎君」
「ちょっと待て、今のナシっ」
寿也はにやっと笑って、聞こえないフリをして布団を肩までかぶった。
(おいおい、本当に何考えてんだよ。寿の野郎)
ぎゅっと手を握ったまま、目を閉じている彼を見て深いため息をつく。
さっきまで物音がしていた廊下も消灯の時間が来たのか、今はひっそりと静まり返っていた。
ゆっくりと部屋を出て、先ほどのタオルのあと片づけをしてから吾郎も床に就いた。
しかし、いつもはとても寝つきがいい彼だったが、今日に限っては中々寝付くことが出来ないでいた。
自分の眉村に対する気持ちと、寿也を裏切っているのではないかと思う気持ち。
その狭間で彼は頭を悩ませる。
様々な思いが交錯する中、彼は夢の中へと旅立っていった。
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