部屋に戻ると、寿也がベッドに座っていた。
「おい、起きてもいいのかよ?」
「うん、まだ少しフラフラするけどね」
「りんご、食うか?」
吾郎の問いにコクリと頷く。
フォークに刺して、手渡す。その時、指の切り傷に気がついた。
「この傷、どうしたの?」
「あ、ああ。大したことねぇよ。ちょっと切っただけだから」
吾郎は、眉村のことを思い出し、どぎまぎしながら答える。
「もしかして、これ吾郎君が切ってくれたの?」
「えっ、いやぁ俺は途中まで頑張ったんだけど、うまく切れなくってよ……」
眉村が切ったと言おうとしたら、寿也が吾郎の肩に寄り添ってきた。
「嬉しいよ。吾郎君……ありがとう」
「お、おう。気にすんなって」
吾郎は、すっかり本当のことを話しそびれてしまった。
「もう、横になって寝てろよ」
「吾郎君。側にいてくれる?」
「わかった。いてやるから寝ろ」
いつもとは違って妙にしおらしくなった彼の手を握り、汗で張り付いた前髪をかきあげる。
そのうち彼は、すーすーと寝息を立てて眠ってしまった。
(眉村にあんなことされたって言ったら、またすっげー怒るかな?)
眠ったままの彼の手を握ったまま、考える。
なんで、眉村のことを拒めないのか。
(俺、ひょっとして眉村のことも!?)
そんな考えに至り、ぶるぶると頭を振る。
それじゃぁ、二股じゃないかっ。
眉村は、自分が越えなければいけない相手で、最大のライバルだと思ってて……。
だからこそ憧れもするし、一目置いた存在だ。
ふと、そこで気がつく。
(それって、寿にも当てはまってるし……)
サーっと血の気が引いていく。
(違うっ! 絶対違う!! 眉村のことは、恋愛感情なんかじゃない……ハズ)
一人、心の中で葛藤を繰り返す。
その時、お腹の虫がグーっと大騒ぎを始めた。
吾郎は、とりあえず食堂へと向かった。
食堂は、多くのチームメイトでにぎわっていた。
吾郎も空いている席へと座る。
いつも隣にいるはずの寿也がいないのが妙に寂しい。
「ここ、空いてるか?」
「おお、勝手座れよ」
気の無い返事をして、相手の顔を見るとそれは眉村だった。
今、一番会いたくない人物との遭遇に、思わず後退る。
そんな彼の様子に、眉村は苦笑した。
「そんなに警戒するな。お前に気が無いことくらい判ってる」
まわりに聞こえないよう小声で話す。
二人の間には、ちょっと気まずい空気が漂っていた。
「佐藤の具合はどうだ?」
「あ、だいぶ熱は落ち着いてきたみたいだ」
「そうか」
再び会話が途絶える。
お互い黙ったまま食事を終えた。
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