次の日は雨だった。
グラウンドが使えないため練習は室内で行い、いつもより早く終了した。
吾郎たちの部屋には、児玉や三宅そして国分がいつものように遊びに来ていた。
最近は練習終了後それが日課になっている。
「それにしても、あいつよーやるなー」
「ホントホント……スゴイよね」
「雨の日くらい休めばいいのにな」
窓の外を見ながらみんなあきれたような声を出す。
外ではウインドブレーカーを着て雨の中一人走り続ける吾郎の姿があった。
彼は毎日練習後二時間ほど走り続けているのだ。
そんな彼を見て、寿也は小さく溜息をつく。
「どうしたんや? 佐藤。元気ないなぁ」
「え? ああ、なんでもないよ。ゴメン、心配しないで」
壁にもたれていた身を起こし、できるだけ明るく振舞う。
ここにいるチームメイトはまだ誰も吾郎が出て行くという事実を知らないのだ。
「テレビでもつけようか?」
そう言って寿也はテレビのスイッチを入れる。
部屋に軽快な音楽が流れ始め場の雰囲気も和らいだ。
「なんだよ。お前らまた来てたのか?」
とりとめもない話で盛り上がっていると、吾郎がひょっこりと顔を出す。
「いいじゃん別に」
「そうそう、お前等んとこが一番きれいで落ちつくんや」
「まぁ、これも全部寿也のおかげだけどな」
吾郎は、テレビの前のソファにどかっと腰を下ろす。
「本当に几帳面だよなぁ」
「同室の誰かさんとは大違いってやつだな」
そういって一同わはははと笑う。
「どういう意味だよそりゃ」
「そのまんまだろ?」
「ちっ、どうせ俺は、大雑把だよ」
舌打ちして、ぷいっと横を向く。
「そういや、お前たちの部屋って雑誌とか何もねーのな」
「雑誌? 雑誌ならここにあるだろ?」
なんだよ、見たいのかと言いながら野球雑誌を手渡す。
「違う。そうじゃなくって」
児玉の言葉に、首を傾げる。
「エロ本とかさぁ、普通どこの奴でも持ってるだろ?」
「そういえば、見たことないな」
国分や三宅も、そういわれて見れば。と辺りを見渡す。
本棚には、寿也の参考書や文学小説などが並んでいるだけで、それらしきものはどこにも見当たらない。
「どっかに隠してんのか?」
そう聞かれて、返答に困った。
別に今の二人には必要の無い代物だったから。
「僕らの部屋には、無いと思うよ」
「じゃぁ、ビデオでも見てるのかよ?」
「そういうの、僕、あまり興味ないんだ」
寿也の言葉に、三人は目を丸くした。
「お、おい寿也……」
「だって、本当のことだろ?」
小声で、
「吾郎君は見たいの?」
と、聞かれ言葉に詰まる。
中学生のころは、それなりに興味もあったし、好奇心もあった。
けれど、今は本屋で見かけても大して欲しいとも思わなかった。
「欲求不満とか、ならないのかよ?」
「そりゃなるよ。男だしさ」
「だって、本もビデオも無しで、どうするんだ?」
「どうするって……ねぇ、吾郎君?」
なおも追求してくる児玉に困って、チラッと彼に視線を移す。
「お、俺に振るなよ、寿也!」
「何か、秘密があるのか?」
「さぁ?」
二人の様子に、訝しげな視線を送る三人。
その場の状況から逃げるように吾郎は、立ち上がった。
「お、俺汗かいたから、風呂先に行って来る」
「待ってよ。僕も一緒に行く」
慌てて寿也も、立ち上がる。
「じゃぁ俺たちも、帰るか」
「そうだな」
主がいなくなっては部屋にいる意味も無いので、三人はそれぞれの部屋へ戻っていった。
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