「笑いすぎだって、寿也!!」
吾郎は、顔を真っ赤にして、お腹を抱えて笑う寿也を睨み付ける。
「だって、すっごい声だったんだもん」
寿也はお腹を押さえて、クククっとまだ笑っている。
そのうちにすっかり吾郎はへそを曲げてしまった。
「もういい」
「待ってよ、吾郎君。……じゃぁさ、今度はあれに乗ろうよ」
寿也が指差した先には、観覧車が見える。
「お、いいじゃん」
「夕暮れ時にはあれが一番だろ?」
「……だな」
気がつけばもう夕方で、だんだんと家族連れより恋人たちの割合のほうが多くなってきた。
二人は赤色のゴンドラへ乗り込むと向き合うように座った。
だんだん上に行くにつれ、沈み行く太陽が美しく見える。
「うわぁっ、夕日が綺麗だね」
「そうだな。でも……」
「え?」
窓の外を見ていた寿也が顔を上げると、吾郎がその頬にそっと触れる。
いつもは自分が同じことをしているのに、逆にされると更にドキドキする。
「俺には、寿也のほうがずっと綺麗に見えるぜ」
「吾郎君……」
お互い、手を握り合って口付けを交わす。
初めて吾郎からしてくれたキスは、優しくて思わず涙が零れ落ちる。
「なっ、なんで泣くんだよ……?」
「ごめん。初めて吾郎君の方からキスしてくれたから嬉しくって」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
フッ、と視線が絡み、お互い気恥ずかしくなって俯いたまま黙り込む。
長い沈黙の後、寿也が重い口を開いた。
「本当は、怖かったんだ」
「怖い? 何の話だよ」
「僕と、吾郎君の気持ちに温度差があるような気がして」
「温、度差……!?」
吾郎は言っていることの意味がよく判らず首を傾げた。
「僕は、君のことが好きで好きで堪らない。だけど、吾郎君は優しいから僕の想いに応えてくれてるだけで、実際は違うんじゃないかって」
「どういう意味だ、それ……」
「いつも、僕のほうが求めてばかりで、本当は君はそんなに僕を求めていないんじゃないかって。不安なんだ」
「馬鹿野郎! んなわけ、ないだろ? 俺が寿也を求めてないって!? 冗談はよせ!」
カッとなって立ち上がり、同時にゴンドラが大きく傾いた。
慌てて座りなおし寿也の手をとると、一呼吸置いてからゆっくりとした口調で話し始める。
「俺だって、寿也が好きだ。いつでもお前を求めてるよ。……でも、言えないだろ。自分から『抱いてくれ』なんて」
言ってしまってから顔を赤らめてめて、ぷいっと横を向いてしまう。
「言える訳ねーよ。そんな恥ずかしいセリフ……」
「吾郎君……」
そんな彼が愛しく思え、寿也は隣に座りなおし、頭を支えて深く口付ける。
「んっ……」
そのまま押し倒したい気分だったが、降り口がすぐそこに迫っているのに気がつき、パッと手を離す。
その拍子に吾郎は壁で頭をぶつけた。
「いってー……」
「ご、ゴメン。吾郎君」
お互い、目が合い苦笑する。しばらくしてドアが開き二人はゴンドラを降りた。
辺りはすでに薄暗く、イルミネーションがキラキラと光っていた。
その光が噴水に反射してとても美しい光景を醸し出していた。
「おい、早く帰らないと、また大浴場の風呂掃除させられるぜ」
吾郎が慌てて帰ろうとすると、寿也がそれを止めた。
「大丈夫だよ。マネージャーの田尾さんに遅くなるって言ってあるから」
もう少しだけ、ここにいたい。そう言って、寿也は吾郎の肩に寄り添う。
夕闇が二人の距離を近づける。
きらめく噴水の前で、二人は熱い口付けを交わした。
お互いの存在を確かめるように、深く……
「あ、忘れてた」
「……何がだよ?」
「洗濯物、干しっぱなしだった。」
「!!」
急に現実に引き戻され、二人は夢のような世界を後にした。
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