一時間後吾郎と寿也は電車に揺られていた。
吾郎は隣にちょこんと座っている寿也を見やった。
「なぁ、なんで俺と一緒に遊園地なんて行きたいと思ったんだ?」
「なんでって……。だって、僕ら恋人同士だろ? 普通にデートしたいなって思っただけだよ」
誰が聞いているかも判らないので、自然と声も小声になる。
確かに、毎日一緒にいるがこうやって二人でどこかへ出かけることはまだ数えるほどしかない。
「本当は、映画でも良かったんだけど、それじゃぁ吾郎君寝ちゃうだろ?」
「確かに」
ズバリと言い当てられて、何も言い返せない。
さすが毎日一緒に生活しているだけあって、その辺は良くわかっている。
「普通の恋人同士のデート、してみたいんだ」
再び寂しそうな表情をする。
「お前の気持ちはわかったから。……でも、寿也約束してくれ」
「え?」
「今日一日、楽しみたいならもうそんな顔しないでくれよ」
そんな顔されると、どうしていいかわからなくなるだろ?
そう言われ、寿也はハッとした。
六月の壮行試合が終ったら、彼は自分の前から居なくなってしまう。
それが不安で仕方が無かった。
だが確かに、こんな気持ちでいたら楽しめるはずは無い。
「ごめん、そうだよね。折角のデートなんだから楽しまなきゃね」
少しはにかんで笑うと吾郎も安心した様子を見せた。
二人は電車を降りると、バスに乗り換えた。
車内には若いカップルや女の子同士のグループが沢山乗っていた。
「やけに人が多いんじゃねーか? これ直行便だろ?」
「そりゃそうだよ。ついこの間、オープンしたばかりのところだから」
「そうかよ。まぁいいや、今日は楽しもうぜ」
二人は他の乗客に見えないように手を繋ぐ。
繋いだ手からお互いのぬくもりを感じ、不思議な気持ちになる。
バスを降り、入場門の前まで行くとけっこうな行列が並んでいた。
吾郎たちも順番に改札を通り抜る。
時々ジェットコースターの音が響き渡り、中には絶叫する人もいて、キャーという声が園内中に響いている。
「何から行くんだ?」
「何からって、決まってるじゃないか、もちろん絶叫からだろ?」
吾郎の手を引っ張って、まっすぐジェットコースターへ。
「俺、絶叫系苦手なんだけど」
「大丈夫だって、全然怖くないから。」
「げぇえっ、マジ!?」
嫌がる吾郎を無理やり隣に乗せる。
最前列に乗った二人を乗せて、コースターはゆっくりと恐怖の階段を上っていく。
上に行くにつれて視界がよくなって行き、吾郎は思わずバーをギュッと握り締めた。
そして――。
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