日曜日、寿也は屋上で洗濯物を干していた。
今日はいい天気なので、他の部員たちも何人か干しに来ている。
その中には眉村や薬師寺もいた。
「ちょっと吾郎君、自分のものくらい自分で干しなよ」
自分の側で、地面に座り込み笑いながら漫画を読んでいる彼を一瞥する。
さっきから、全く動く気配のない彼に寿也は業を煮やしていた。
「んもう。いっつも僕がやってるんだからね」
「わかってるよ。これ読んだらやっから」
漫画から目を離さず、先ほどと同じ答えを繰り返す。
今日はこれで同じ事を五回も繰り返している。
いい加減に、我慢の限界だった。
「言うこと聞かないと、この間授業中に君がトイレで何してたかみんなにバラすよ?」
そっと背後に近づき耳打ちする。
「なっ!! あれは、お前だって……っ」
振り向き文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、無言の圧力に圧倒され何も言い返せなかった。
見下したようなその視線にはさすがに頭に来たが、弱みを完全に握られているため従う
しかない。
「わーったよ、やればいいんだろ。やれば」
ぶっきらぼうにそう言って、しぶしぶと漫画を床に置く。
「あのさ今日、外出届もらって、どこかいかない?」
一緒に洗濯物を干しながら、寿也は少し照れたように言い出した。
「えーっ、めんどくせーよ。それよりキャッチボールのが俺はいいな」
「たまには、いいだろ? 君と一緒にいられる時間はあと少ししかないんだから」
「寿也……」
俯き悲しそうな表情を見せる寿也の肩をポンと叩く。
「いいぜ。でもお前、どこに行きたいんだ?」
「遊園地に行きたいな」
「あぁ!? マジかよ!?」
てっきり、ゲーセンかカラオケを想像していた吾郎は、予想だにしていなかった場所の名前を聞いて、愕然とする。
その声に驚いて、他の部員達が一斉に吾郎のほうへ注目した。
「おい、寿也! 野郎二人でそんな所行っても、きっとつまんねーぞ」
みんなの視線を気にして、小声で耳打ちする。
寿也はしばらく考えていたがやがて口を開いた。
「いいんだ、つまらなくても。タダ券余ってるし、僕は君と二人で行ってみたいんだ」
真剣な表情をされては、行く。と言うしかなくなってしまう。
ゆっくりと盛大な溜息を吐いて、吾郎はコクリと頷いた。
「……わぁったよ。行こうぜ遊園地」
「ほんと!? じゃぁ僕、監督に許可もらってくる」
吾郎の答えを聞くが早いか、寿也は慶び勇んで走っていってしまった。
「野郎と遊園地行って何が楽しいかねぇ」
わっかんねぇな。と呟きながら、残りの洗濯物を干し終わると自分の部屋へ降りていった。
部屋で寿也を待ちながら、ふと先ほどの寿也の様子を思い出す。
最近、寿也はよくあんな顔をするようになった。
気が付くといつも切ないような泣きそうな顔をして、
何か言いかけては口を噤む。
身体を重ねている最中も、眉を寄せ不安そうな表情を見せる。
何か追求しようとすると、すぐにはぐらかされて、うやむやにされてしまうが。
吾郎は寿也の本心がどこにあるのか見えなかった。
ハッキリわかっていることは、最近の彼はどこかおかしい。と言うことだけだった。
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