「なあ、寿。お前って授業中眠くならないのか?」
昼休み、屋上で買ってきたばかりのパンを食べながら、さっき授業中に疑問に思っていたことを思い切って聞いてみた。
もし、何かコツがあるなら、少しでも真似してみようと思ったからである。
「そりゃ、あるよ。特に午後の授業はね」
「やっぱお前でもそういう時あるんだ」
寿也も自分と同じなんだと判って、少しホッとする。
しかし、彼はきちんと午後の授業もノートをとっていることを思い出す。
「でもよ、何でお前のノートはちゃんと綺麗にまとまってんだ?」
俺のなんか、ミミズが這ってるみたいで全然読めないぞ。と吾郎が不思議そうな顔をすると、寿也はクスクス笑い出した。
「確かに、君のノートはミミズがいっぱいだよね」
「んだよ。しょがねえじゃん」
すっかりふて腐れる彼に、寿也はポツリと言った。
「実はね、いいおまじないがあるんだ」
「まじないだぁ?」
まさかそんなものを寿也が信じているとは夢にも思わない吾郎はおかしな声を上げる。
「んで? そのまじないって誰にでも出来るのか?」
「うーん、吾郎君にはどうだろう?」
腕を組んで考え込む。
吾郎は気になって仕方が無い。
教えてくれよと、頼み込むと寿也はうーんと伸びをして、柔らかな春風を身体いっぱいに吸い込む。
「ようは、イメージトレーニングってやつ」
「イメージトレーニング?」
「そう。眠くなると、自分が目が覚めるものを思い出すんだ」
「例えばどんなものだよ?」
「そうだね……例えば僕がよく思い出すのは……」
そう言って指をピッと伸ばすと、吾郎の鼻にちょんと触れる。
「俺?」
きょとんとした顔をしている吾郎にコクリと頷く。
「そう、吾郎君、君だよ」
「ってゆーか、俺の何を思い出すってんだ?」
寿也は、まだ判らないの? と呟きため息混じりに答えた。
「君のエッチな姿、とか」
「んな!?」
聞いたとたん、パンが喉に詰まり、胸をドンドンと叩く。
「何考えてんだよ、寿!?」
「何って、夕べの吾郎君は色っぽかったなぁとか、今度はこんな事してみようかな……とか」
うっとりと恍惚の表情を見せる寿也に、吾郎は少し退いてしまう。
涼しい顔して、授業中に何考えてるんだ。と、吾郎は思った。
「だって僕、男だし、好きな人の事考えるとさ、どうしてもそっちの方に行っちゃうんだよね」
今だって。と、言いながら吾郎の顔を両手で挟み込む。
「お、おい寿!! ここ屋上だから、ぜってーやばいって」
慌てて、両手で突っぱねた。
その時丁度昼休みが終わるチャイムが鳴った。
「じゃ、もどろっか教室に」
焦る吾郎の反応を楽しむかのようににっこりと微笑む。
からかわれた事に対して文句の一つでも言ってやろうと思ったが、こんな所で喧嘩して授業に遅れてしまってはいけない。
仕方なく並んで教室へ戻ることにした。
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