九月の終わりとはいえ少しムシムシしている
自販機の前にたどり着いて、オレンジジュースを買うと窓を開けた。
虫たちの声とともに、さわやかな秋の風が耳元を通り過ぎてゆく。
その声を聞きながら、寿也は少しずつ心のざわめきが静まっていくのを感じていた。
「佐藤?」
名前を呼ばれ、振り向くとそこには眉村が首からタオルを下げて立っていた。
どうやら、風呂上りらしい
「眠れないのか?」
「うん、まぁね。 眉村君はこんな夜遅くまでなにを?」
「色々と」
色々なにをしていたのか気になるが、あえて聞かないことにした。
二人きりで話をするのはこれが初めてで、なんだか不思議な感じだ。
生活のほとんどを吾郎と一緒に過ごしているため、特に眉村とはあまり話す機会がなか
った。
いつもクールでマイペースな彼は、必要以上のことはしゃべらない吾郎とは正反対のピ
ッチャー。
実にわかりやすい吾郎とあまりにも対照的な彼は、吾郎と衝突することも多い。(一方
的に吾郎がくってかかる率が高いのだが)
一体彼は、なにを考えているんだろう?
何気に顔を上げ、ふと目が合う
鋭い目が寿也を捕らえている
全てを見透かされそうで思わず視線を逸らす。
「茂野と、喧嘩でもしてるのか?」
唐突に尋ねられ、戸惑いながら首を振る。
眉村は、ふーんとつまらなそうに呟くと一気にジュースを飲み干した。
「佐藤は、茂野のこと好きなんだろ?」
「 えっ!?」
あまりにストレートにそう聞かれ、顔がカーッと火照りだす。
「違うのか?」
寿也は下を向いたまま口を噤んでしまった。
それが答えだった。
「どうして……」
わかったのだろう?
他の誰にも気付かれないように、細心の注意を払っていたのに。
「 お前のやつに対する視線を見ればすぐわかるさ」
クスッと笑って、眉村は空き缶を放り投げた。
きれいな放物線を描き空き缶は、カランッと小気味いい音を立ててゴミ箱へ。
「気付いてるのは、たぶん俺だけだろう」
「悪いけど、このことは誰にも……」
「安心しろ、誰にも言うつもりはない」
そういい残して彼は自室へと姿を消した。
再びあたりは静寂に包まれ、時々寮内のどこからかいびきが聞こえてくる。
それ以外はとても静かな夜だった。
「僕もそろそろ寝なきゃ」
眉村のことは気になるけれど、明日も遅刻したら大変だ。
そう思い、とりあえず部屋に戻ることにした。
時計の針は0時をさしており、同居人もグーグー気持ちよさそうに眠っている。
「寝顔はこんなに可愛いのになぁ」
起きていると、どうしてあんなに口が悪いのだろう。
可愛いなんていったら彼はきっと怒るだろうが、寝ているときのあどけない顔は幼い時
の顔とあまり変わっていないような気がする。
「おやすみ、吾郎君」
ちょっと固めのくせっけにそっと触れて、そっとおでこにキスをして自分も床に入る。
外の虫たちの大合唱を耳の奥で感じながら、夢の世へと旅立つ。
明日はいい日になりますように……そう願いながら。
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