中に入ってきた二人はその異様な雰囲気に思わず息を呑んだ。
寿也は、吾郎の顔をチラッとみやるが、視線を反らされてしまい、違和感を感じて首を傾げる。
静香はただ黙って吾郎を睨み付けていた。
「なんの用だよ、俺別になんも悪い事してねーぞ」
最初に口を開いたのは吾郎だった。横柄な態度はいつもとかわらない。
「茂野君あなた、首にキスマーク付けてたってホントなの?」
「あ?」
唐突な静香の質問に吾郎は一瞬たじろいだ。が、ポケットに手を突っ込んだままフンッと鼻を鳴らした。
「身に覚えの無いこと、聞かれても困るんだけど。証拠あるのかよ?」
自信たっぷりのその口調に、そこにいる眉村以外の三人は目を見張った。
「なんなら、今ココで服脱いでやろうか?」
「な!?」
ぶっきらぼうに言い放ち、自らジャージに手をかける。
静香は頬を紅く染め目を背けてしまい、寿也はあいた口が塞がらない。
泰造は、ちょっと失礼。と言いながら吾郎の身体をチェックするが、そこにはキスマークなんて、ひとつも見当たらなかった。
「おっかしいわね?」
泰造は首をかしげ、隣にいる眉村に視線を移す。
「あなた、あの場にいたでしょ? あの時一緒に見たわよねぇ」
「俺には、わかりかねます」
静かな口調で、一言そう言った。
「呼び出しの理由が、これだけなら、俺は失礼します」
興味なさそうに、彼は部屋を出て行ってしまった。
重苦しい空気が部屋全体に漂う。
「何を寿也から聞きたかったのか知らねぇけどよ、俺は何にも疚しいことは何一つしてないからな」
「どうやら、私たちの勘違いだったみたいね」
静香はそういうが、泰造はまだ納得できていない様子だ。
「もう、部屋に帰ってもいいわよ二人とも」
ため息混じりに、言われ、吾郎と寿也はホッと胸をなでおろす。
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