「実はね、私見ちゃったのよ。彼の首筋のキスマークを」
泰造が組んだ腕を頬に当て、ほうっとため息つく。
その話を聞いて、ハッとした。
さっきの吾郎の話を思い出したのだ。
静香は急に声のトーンを落とし、真剣な眼差しで寿也を見据えた。
「我が海堂高校にとって、生徒のスキャンダルは大問題なの。あなたたちはまだ学生なんだから、例え付き合っていたとしてもそういう行為は、してはいけないことなのよ」
身体をしっかりと押さえ身震いをする。
「もし、そんなことがマスコミに知れたら、県大会にだって出られなくなってしまうわ」
その続きを泰造が代弁する。
「だから、お願い。彼の行動を正直に話して欲しいの」
賢いあなたならわかるわよね。
と言われ、寿也は眩暈がした。
普通の男女の関係でさえ、学生であると言うだけで大騒ぎされてしまう。
それなのに、自分たちの関係が世間に知られたらもっと大変な事態になることは目に見えていた。
泰造と静香は寿也が口を開くのを待っている。
なんといえばこの場をうまく誤魔化せるのだろう。
なかなか、いい案が浮かばない。
「本当に、知らないの?」
「はい。僕にはわかりませんが、何かの見間違いじゃないんですか?」
「見間違い?」
二人は声をそろえて、顔を見合わせた。
「だって、昨夜も彼は僕より先にいびきをかいて寝てしまったし、朝も僕が彼を起こすまでは絶対に起きてこないし」
出来るだけ彼女たちの顔を見ながら、答える。
「それに、彼は二段ベッドの上で寝てるので少しでも動く気配がしたら、僕が気がつきますよ」
「それもそうね」
静香は納得し始めているようだが、泰造の目は未だに疑っている。
「いや、あれは絶対キスマークよ。だって彼、そのちょっと前から様子が変だったし」
「変って?」
「腰のとこをちょっと触ったら、急に艶っぽい声出して。あれは、どうみても変だわ」
泰造は鼻息を荒くして再び腕組をする。
寿也は言葉を失った。
全く、何を考えているんだ。とあきれ返ってしまった。
「そうだ、その時一緒に眉村君がいたはずよ」
「そう、じゃぁ彼に証人になってもらえば、あれが見間違いだったかハッキリするわね」
静香がそう言って、全体放送をかけようとして、マイクを取る。
「静香、ついでに茂野君をココに呼べば全てハッキリするんじゃない?」
「それもそうね」
数分後には、二人がそろって監督室の前に立っていた。
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