(俺は一体何のためにこんな事をしてるんだ?)
眉村は、自問自答していた。
シャワーの音が脱衣所内に響いてくる。
扉一枚向こうにはアイツがいる。
そんな状況に思わず息を呑む。
吾郎に、「諦める」
と言ったものの未だに諦めきれていなかった。
それどころか、最近は好きだと言う想いを抑えることが出来なくなっていた。
トレーニング室でのあの艶っぽい声が頭から離れない。
おまけに目の前であんな徴を見せ付けられ、冷静でいられるほど彼は大人ではなかった。
一人で悶々としていると、やがて濡れた髪をタオルで拭きながら吾郎がひょっこり顔を覗かせた。
「よぉ、誰も来なかったか?」
「あ、あぁ」
先ほどまで残っていた痕はもう何処にもなく、代わりにほんのりと上気した肌が、やけに艶っぽく見える。
髪から落ちた雫は首筋を流れ、自分と同じ平らな胸を伝ってゆく。そんな細かな部分にまで目がいってしまい、ジワリと邪な考えが頭を擡げ始める。
そんな、彼の気持ちなど知る由も無い吾郎は脱衣所の長いすに腰掛けふーっと息をつく。
「ジュースでも飲むか?」
吾郎の問いに眉村は首を横に振った。
もともと無口なせいで会話が続かない。
「お礼しなくちゃな。 お前には借り作っちまったし」
「……」
うーん、と悩む吾郎の横で、眉村は目を見張った。
決して手の届かない存在だからこそ、強引にでも自分のモノにしたいと願ってしまう。自分以外の男と、なんて考えたくもない。
「茂野……」
全てを奪ってやりたい衝動に駆られ、無意識のうちに吾郎の頬に手を伸ばす。
そしてそのまま吸い込まれるように、彼は吾郎に口付けていたのだった。
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