廊下をズンズンとものすごい形相で歩いている生徒がいる。
すれ違う仲間たちもあまりの剣幕に声をかけることが出来ないでいた。
障らぬ神に祟りなしといわんばかりに遠巻きに様子をうかがっている。
自分の部屋の前にたどり着くと、勢いよくドアをあけ、中へ入っていった。
「おい寿!!」
物凄い勢いのまま、机で読書中の幼馴染を睨みつける。
「どうしたんだい? 怖い顔して」
読みかけの本にしおりを挟み、正面から彼を見据える。
どうやら腹を立てているらしいが、その理由が思い当たらない。
「何か、あったの?」
「夕べお前、体中キスマークつけやがったな!!」
「なぁんだ、そんなことで怒ってるの」
顔を真っ赤にして怒る吾郎に、冷めた口調で返す。
「なにのんきな事言ってんだよ。あのおカマ野朗と眉村に見られたんだぞ!!」
オカマ野朗というのはもちろん泰造の事だ。
お前のせいだと言わんばかりの吾郎に対しふっと笑みを零す。
「何がおかしいんだよ」
「だって、アレだけ沢山付けたのに、気がつかないで、泰造さんの所に行くなんて、吾郎君結構マヌケだよね」
マヌケと言われさらにカチンと来る。
「あっ、そうか。付けられたことにも気がつかない位、夢中だったって事か」
「!!」
ニヤリと笑う寿也に吾郎は思わずたじろいだ。
「夕べは特に敏感になってたし、キスだけで腰砕けになっちゃうくらいだし」
「う、それはっ」
何も言い返せずさっきの怒りは何処へやら、形勢は一気に逆転してしまう。
「最近の吾郎君、エッチだよねぇ。自分から求めてくるし」
「そんなこと、してねえよ!」
ジリジリと壁際に追い詰められ、寿也の瞳が怪しく光る。
ヤバイ! と思ったときには既に遅し。グイッと腰を引き寄せられ、がっしりと頭を固定され、熱い口付けを交わす。
「ん……は、離せよ」
「やだ」
きっぱりと却下され開いた隙間から、舌を割り入れる。
「ふ……ぁ……」
急に膝に力が入らなくなり、その場にガクッと崩れ落ちる。
寿也はその様子を、クスクス笑いながら楽しんでいた。
「お前、最近性格悪いぞ」
「今更気がついた?」
単純な彼を自分のペースに乗せるのは容易いことだ。
予想通りの行動をしてくれるのでもっと苛めたくなってしまう。
その時、館内放送がかかった。
『佐藤君、至急監督室に来るように』
「何だろう?」
「お前、また爺さんが倒れたんじゃないだろうなぁ?」
「わからないけど、とにかく行ってみるよ」
「お、おぅ。」
そういって吾郎の頭をぽんと撫でる。
「続きは、夜しようね」
「!!」
耳元で囁くと、部屋を後にした。
前/ススム
Menuへ戻る