「おい、寿!」
夕方、練習が終わり食堂に向かう途中、呼び止められた。
その表情から明らかに機嫌が悪いことが読み取れる。
「何で俺を避けるんだよ」
「避けてなんかいないよ」
そう言いながらも、決して目を見ようとはしない。
いや、出来ないのだ。
今朝の夢が頭から離れず、話をしている間もつい彼の口元ばかりに目が集中してしま
う。
練習にも身が入らずに今日は珍しく監督に怒られたほどだ。
「じゃぁ、何で俺の球捕らないんだよ」
彼は、今日の練習で自分ではなく眉村と投球練習していたのが気に入らないらしい。
「それは……」
「佐藤はお前の所有物じゃないんだ。誰と組もうが勝手だろう」
寿也が何か言いかけたその時、後ろから声がした。
眉村だった。
「 いつまでも、ガキじゃないんだから佐藤に頼ってばかりじゃ、俺を超えれない」
「!!」
「ダメだよ吾郎君。落ち着いて!」
カッとなって、いまにも飛び掛りそうな吾郎を寿也は必死に抑えた。
「まるで猛獣だな」
嘲笑うかのように言い捨て、眉村は食堂をあとにする。
「あんの、ヤロー!!」
「ダメだって、喧嘩は……」
「わかってるよ! でも確かに眉村の言うとおりだ」
寿也に頼ってばかりじゃ、彼は超えられない。
図星だった。
ムカつくことは多々あるけれど、眉村の言っていることは正しい。
寿也に頼らなくても、彼に勝てるくらい強くならないと、海堂に来た意味がない。
「吾郎君?」
「なんでもねーよ。早く飯くっちまおうぜ」
寿也の頭にポンっと手を置いて、食堂の空いている席を指差す。
折角ハードな練習も終わって自由時間なんだ。
嫌な気持ちでいるのはもったいない。
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