海堂編

LoveSick


「ありがとよ、親父」

「おい吾郎」

「なんだよ、忘れもんならもうないぜ?」

トランクの荷物を受け取り、行こうとすると運転席の英毅に呼び止められた。

「今度、彼女を家に連れて来い」

「あ? あぁそのうちな」

実際は彼女ではなく彼なのだが、敢えてそのへんには触れずに気のない返事をする。

「それともう一つ」

「まだあんのかよ?」

ぐいっと腕を引っ張られ、こっそりと耳打ちする。

「絶対、孕ませたりするなよ。俺はまだ、若いじいちゃんにはなりたくないからな」

「ああ、そのことなら心配ねぇよ。100%ありえねぇから」

相手は男だ。妊娠なんて絶対にありえない。

「じゃぁ、もう行くからな」

振り向くことなく歩き出す。

そのちょっとあとら聞きなれた足音が近づいて来た。

「吾郎君!!」

「よぉ、寿! 元気してたか?」

はぁはぁ、息を切らせ走ってきたのか、大きく肩で息をしている。

「向こうから、君の姿が見えたから」

「別に走ってこなくっても、行くとこは同じだろ?」

「少しでも、早く吾郎君に会いたかったんだよ」

お互い顔を見つめて、笑いあう。

その様子を車の中で見届け、英毅は動き出す。

「吾郎のやつ、本当にゲイなんじゃ……」

ハッと我に帰りフルフルと首を振る。

あの時の取り乱しようといい、今日の二人の姿といい親友と呼ぶにはちょっと違和感が感じられる。

あれでは親友と言うより、恋人のようだ。

親友が女の子と一緒にいただけで、あそこまで激昂するだろうか?

それに、付き合っている彼女がいるって言っていたが、休み中その彼女と会うそぶりは全くなかった。

今、付き合っているやつがあの佐藤寿也だと考えると、その辺の疑問がどうもしっくりあう。

「まさか、なぁ」

そんなはずない。と考えを否定し、再び車を走らせる。

不安を抱えたまま、英毅は家路へと帰っていった。

/ススム

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