海堂編

LoveSick


正月の公園はさすがに誰もおらず、車もまばらだった。

今にも噛み付きそうな吾郎を見て、寿也ははぁっ重く息を吐く。

「何で、嘘ついたんだよ」

ポツリと吾郎が口を開いた。

「綾音ちゃんとは、もうずっと前から約束してあったんだ」

「そうかよ、お前ずっと俺を騙してたんだな!?」

彼女の名前を聞いてさらにカッとなる。

「騙してなんかいないよ。あの娘は友の浦中の後輩で……」

「聞きたくねぇよ、そんな話!! その娘と付き合ってたんなら、最初からそういやいいじゃねーか!」

興奮し、吾郎の腕がわなわなと震えだす。

「俺は、その女の代用品だったわけだな!!」

「違う! 吾郎君、ちょっと落ち着いて」

「これが、落ち着いていられるかよ!! そいつの事抱けないから、代わりに俺を抱いてたんだろ!?」

すっかり感情的になり、その瞳にはうっすらと涙を浮かべていた。

「吾郎君!!」

何を言っても無駄だと悟ったのか、吾郎をぎゅっと抱きしめた。

「離せ、離せよ 寿!!……んぅ!」

半ば強引に唇を奪う。

しばらくジタバタもがいていたが、やがてぱったりと大人しくなった。

「お前なんか、嫌いだ」

頬を上気させ、拗ねたように視線を逸らす。

「うん、わかったから、僕の話聞いてくれる?」

吾郎は、黙って頷いた。

「あの娘は中学の後輩で、野球部のマネージャーなんだ」

「だから、付き合ってたんだろ?」

「違うって……あの娘とはなんでもない。よく、試合見に来てくれたりしてたけど特に特別な感情はないし」

「だって、神社で笑いあってたじゃねーか」

ムスッとしたまま、膝を抱える。

「普通だよ。僕はデートしてたつもりもないし、ただ、一緒に行こうって誘われてただけで」

「だからって、あんな顔……」

他のやつにはして欲しくない。

そう思った。

「もしかして、妬いてた?」

「そうじゃ……ねぇ」

俯く彼の横で、寿也がクスッと笑う。

「忙しいって言ったのは本当なんだ。休みの間は全部バイト入れてたから。 ゴメン、誤解させるような真似して」

「いいよ。別に……俺、すっげーみっともねぇ」

一人で勝手に勘違いして……。

髪をかきあげ、はぁっと溜息をつく。

「でも、嬉しいなぁ。 吾郎君が妬いてくれたなんて」

「妬いてねぇよ。ただ、誰かにお前取られんじゃないかって不安で……」

「うん、わかってる。」

そっと繋いだ手から、お互いのぬくもりを感じる。

「僕、もう行かなきゃ。 吾郎君一人で帰れる?」

「大丈夫だって。ごめんな、寿」

「もういいって。それじゃぁ、また」

そう言って手を振ると寿也は再びバッティングセンターのほうへ戻っていった。

「さて、と俺も帰るかなぁ」

立ち上がったとほぼ同時に後ろでクラクションを鳴らす音が聞こえた。

「よう、話は済んだのか?」

心配になった英毅が戻ってきたのだ。

「あぁ」

心配させたのが少し申し訳なく思え、吾郎は急いで車に乗り込んだ。

信号待ちの車の中で、英毅がポツリと呟く。

「お前、まさかホモじゃ、ないよな?」

「……んなわけ、ねーだろ!? 変なこと言うなよ!! 親父」

当たらずしも遠からず、思わずゴホゴホと咳き込んでしまう。

「だよなぁ」

あははと笑う英毅の横で、吾郎は引きつり笑いを浮かべていた。


/ススム

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