「ここで、好きなだけ打て。そうすりゃ気分も晴れるだろ」
「ありがとよ、親父」
英毅なりの気遣いが嬉しくて少し照れながら、バッターボックスへ入る。
自分の邪念と戦うべく、ひたすら打ち込んだ。
その時、ふと顔を上げた視線の角に寿也の姿を捕らえたような気がした。
慌てて打席からでて、その姿を探す。
彼は、ココの手伝いをしているらしかった。
彼の姿を見た途端、今まで抱えていた怒りが沸々と湧き起こり睨み付ける。
「寿!!」
大声で名前を呼ぶと、彼も驚いた表情を見せた。
「吾郎君!? 驚いたなどうしてココへ?」
「どうしたも、こうしたもねぇよ! お前、俺に嘘吐いてたな!!」
声が震えて、今にも殴りかかりそうな勢いだ。
「何のことだい?」
「しらばっくれるなよ。お前、俺に正月は忙しいとか言ってたくせに、女とデートしてたじゃねーか」
「!?」
「お、おい吾郎。ここじゃ、まわりの客に迷惑だ」
「うるせぇ! 親父は黙ってろ!」
慌てて英毅が止めようとするが、彼の興奮は治まる気配は全くない。
周りにいた数名の客もなんだ、なんだと集まってくる。
「俺より、女のほうが大事だったんだろ!?」
すっかり血が上っている様子の吾郎を見詰め、寿也は昨日のアレを見られてしまったのかと困惑する。
「そうじゃないよ。彼女とは……なんでもないんだ」
「何が違うんだよ!!」
困り果てた寿也は、「ちょっと待ってて」と、言い残し管理室の奥へ。
「待て! 逃げるのかよ!」
「オイ吾郎、少し落ち着けって」
今にも食って掛かりそうな吾郎を、慌てて英毅が取り押さえる。
「逃げたりしないよ。ココじゃちょっとマズイから、場所を変えよう」
未だ興奮治まらぬ吾郎を連れて、バッティングセンターから近くの公園へと場所を移す。
さすがに少し落ち着いたものの、吾郎はまだ怒りを露にしていた。
「……二人で話がしたいので、すみませんが先に戻っていてくれますか?」
寿也の申し出に、英毅は酷く困惑した。
先ほどの尋常じゃない様子からして、目の前の彼に殴り掛からないと言う保障は何処にもない。
そんな、英毅の考えを組んだのか寿也がニコッと笑った。
「吾郎君の事なら、大丈夫ですから。 お願いします」
「あ、あぁ……、わかった。」
不安要素は多々あったが、二人きりになりたいと真剣な瞳で訴えられれば仕方がない。
英毅は最後まで心配していたが、後ろ髪を惹かれる思いで先に自宅へと戻っていった。
前/ススム
Menuへ戻る